サーキット走行におけるコーナリングの基本として、最初に教えられるのが「アウト・イン・アウト」です。
ストレートエンドではアウト側からコーナーへ進入し、クリッピングポイントではインをかすめ、出口では再びアウト側へ広がる走行ラインです。コース幅を広く使って走行ラインの曲率を小さくし、旋回半径を大きくできるため、同じコーナーをより高い速度で通過しやすいと説明されます。
減速、転舵、加速の操作が同程度に合理的であるドライバー同士なら、この比較は正しいでしょう。
しかし、この説明では、未経験者がアウト・イン・アウトという形だけを先に覚えても、その本当の価値を十分に理解し実践するのは困難だと思います。
進入速度が高すぎるのに、ステアリングを切り足してクリッピングポイントへ寄ろうとする。出口で外側へ膨らむと、さらにステアリングを切って内側へ戻そうとする。これでは前輪が限界に達し、アンダーステアを強めるだけです。
アウト・イン・アウトを通ることと、速くコーナーを通過することは同じではありません。同じ走行ラインでも、減速、転舵、加速の操作によって区間タイムは大きく変わります。
わたし理屈コネ太郎は最近、アウト・イン・アウトは、未経験者が最初から形として目指すべき走行ラインというよりも、一定水準以上の運転操作によってコーナー区間のタイムを短縮しようとしたとき、その価値が発揮され、結果として選ばれる走行ラインなのではないかと考えるようになりました。
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本記事で想定するコーナー
本記事では説明を単純化するため、仮想上のサーキットの一部として、長い進入ストレートと長い脱出ストレートを、道路中心線の曲率が一定、すなわちコーナー半径が一定の中低速180度コーナーでつないだレイアウトを想定します。
進入時の減速だけでなく、出口速度も重要になるコーナーです。
実際のサーキットには、曲率変化、勾配、カント、複合コーナーなどがありますが、本記事ではそれらをいったん考えず、ブレーキ踏力、舵角、アクセル開度の基本的な関係に絞って説明します。
また、下記の図1と後述する図3では、コーナー内側の境界上に置いた目標点をクリッピングポイント、略してCPとし、その直近を通る走行ライン上の地点を「イン」として描いています。
図1 180度コーナーにおけるアウト・イン・アウトの概略図

速く走るために必要な一連の操作
実際のコーナリングでは、次のような操作を行います。
ストレートエンドでは、ステアリングを中立に保ったまま、急減速目的の強く短いブレーキングを行う。
ターンインでは、ブレーキ踏力を減らすのに合わせて舵角を増やす。
クリッピングポイント付近ではブレーキを終え、右足をアクセルへ踏み替える。
そこからは、舵角を戻すのに合わせてアクセル開度を増やす。
前後のストレートを含むコーナー区間の通過時間を短くするには、
ストレートの高い速度をどこまで保つのか?
ストレートエンドでどれだけ短時間・短距離で減速するのか?
ブレーキ踏力をどう抜くのか、舵角をどう増やすのか?
クリッピングポイント以降は、舵角をどう戻しながらアクセル開度を増やすのか?
について、それぞれ適切な答えを出す必要があります。
コーナリングとは、ステアリングを切っている区間のことではありません。ストレートエンドで減速を始め、旋回へ移り、出口へ向けて加速するまでの全体が、ひとつのコーナリング操作のまとまりです。
ストレートエンドの減速は、舵角ゼロ・強く・短く
長いストレートでは、基本的にアクセルを床まで踏み込み、ステアリングをほぼ中立にして走っています。
どんどんとコーナーが近づいてきます。
ストレートエンドへ到達したら、アクセルからブレーキへ素早く踏み替え、ステアリングをほぼ中立に保ったまま、強いブレーキ踏力を短時間で立ち上げます。
コーナーによっては、最大制動に近い強さまでブレーキを使うこともあります。ここでいう最大とは、その車両、タイヤ、路面で安定して使える制動力の上限付近という意味です。
この段階では、タイヤの摩擦力を、ほぼすべて減速へ使う意識です。
強いブレーキをかけながら大きな舵角を与えれば、タイヤに減速と旋回の両方を強く要求することになり、限界を超えやすくなります。
したがって、ストレートエンドの減速区間ではステアリングをできるだけ中立に保ち、タイヤの能力を主に減速へ使い、コーナー進入に備えます。
ブレーキ踏力を抜きながら舵角を増やす
ストレートエンドのフルブレーキを終え、旋回が可能な速度へ近づいたら、ターンインを始めるタイミングです。
タイヤが発揮できる摩擦力の大部分は、フルブレーキによる減速に使われています。
したがって、ターンインするには、摩擦力を旋回にも振り分ける必要があります。そこで、それまで最大だったブレーキ踏力を少し弱め、タイヤに旋回へ使える余裕をつくる必要があります。その余裕ができることで、舵角を与えて旋回できるようになります。
ブレーキ踏力が大きいほど、無理なく使える舵角は小さくなります。
反対に、
ブレーキ踏力を減らすほど、より大きな舵角を使えるようになります。
そこで、ターンインを始めるのに合わせてブレーキ踏力を少しずつ減らし、踏力を抜いた分だけ舵角を増やしていきます。
感覚的には、
ブレーキを1抜いたら、舵角を1増やす。
という理解です。もちろん、この比率が常に1対1というわけではありませんが、ここでは分かりやすくこの比率を採用しました。
これは物理学的な反比例ではありませんが、操作の関係を直感的に理解するには有効です。
ストレートエンドでのフルブレーキから踏力を緩め、前輪側に荷重を残しながら旋回へ入り、ブレーキ踏力を減らしながら舵角を増やしていく。この一連の操作がトレイルブレーキです。(荷重と荷重移動については別記事コーナリングにおける後輪のグリップと前後荷重移動についてに詳述しています)
トレイルブレーキは、ただブレーキを遅い地点まで踏み続ける技術ではありません。ブレーキ踏力を減らしながら舵角を増やし、タイヤの仕事を減速から旋回へスムーズに移す技術です。その意味で、トレイルブレーキはストレートエンドでの減速のためのフルブレーキとは違う目的の操作です。
ストレートエンドでの急減速を目的とした最大付近のブレーキ踏力によるフルブレーキと、その後のコーナー前半で用いるトレイルブレーキは、明確に意識して使い分ける必要があります。
クリッピングポイント付近でアクセルへ踏み替える
トレイルブレーキを使いながら舵角を増やしていくと、クルマはクリッピングポイント付近のインへ近づきます。
本記事で想定する単純な180度コーナーと図2の概念モデルでは、クリッピングポイント付近でトレイルブレーキを終えます。
この付近でブレーキ踏力はほぼゼロとなり、舵角は一連の操作の中で最も大きくなります。そこで右足をブレーキからアクセルへ素早く踏み替え、小さなアクセル開度から加速を始めます。
大きな舵角を残したまま一気にアクセルを開けても、タイヤは旋回と加速の両方を十分には担えません。その結果、アンダーステアが強まったり、車両姿勢を乱したりします。ですから、クリッピングポイント前後で始める加速は、舵角に見合うだけのごく穏やかな加速が妥当です。
ただし、すべてのコーナーでトレイルブレーキ終了地点とクリッピングポイントが一致するわけではありません。ここでは、ブレーキ踏力、舵角、アクセル開度の関係を理解しやすくするため、典型的な例を想定しています。
舵角を戻しながらアクセル開度を増やす
クリッピングポイント付近のインを通過した後は、ステアリングを徐々に中立方向へ戻しながら、アクセル開度を増やします。
出口側にも、進入側と同じようにトレードオフがあります。それは以下のようなものです。
アクセル開度を大きくするほど、無理なく残せる舵角は小さくなります。
反対に、
舵角を戻すほど、より大きなアクセル開度を使えるようになります。
クリッピングポイント付近では、タイヤの摩擦力の多くが旋回に使われています。
その状態でアクセル開度を過度に増やすと、タイヤに旋回と加速の両方を強く要求することになります。さらに、加速によって荷重が後方へ移るため、前輪は狙った走行ラインを保ちにくくなり、アンダーステアが生じます。車両によっては、姿勢を大きく乱すこともあります。
感覚的には、
舵角を1戻したら、アクセルを1増やす。
という理解です。
ステアリングを戻す操作と、アクセルを踏み増す操作は、別々に行うものではありません。クルマが狙った走行ラインより外側へ逃げない範囲を探りながら、ほぼ同期させて進めます。
図2 ストレートエンドからコーナー脱出までの、アクセル開度・ブレーキ踏力・舵角の関係の概念図

図2は、ここまで説明した操作を、左から右への時間経過として表した概念図です。
赤い実線はアクセル開度、青い実線はブレーキ踏力、オレンジ色の破線は舵角を示しています。
図2は実測データではなく、わたし自身の走行経験と、プロドライバーから受けた教示を統合したオリジナルの概念図です。あくまで操作の順序と重なり方を理解するための概念図であり、すべての車両やコーナーにそのまま当てはまるものではありません。
縦軸は、それぞれの操作量を相対的に示しています。アクセル開度、ブレーキ踏力、舵角は異なる量であるため、線の高さや交差位置に物理的な等量の意味はありません。
また、図2はAT車を右足だけで操作する場合を想定しています。MT車や左足ブレーキを使う場合は、ペダル操作の重なり方が異なることがあります。
なぜ結果としてアウト・イン・アウトになるのか
もし、アウト・イン・アウトではなく、イン・イン・インで180度向きを変えようとすれば、タイヤの旋回限界を超えないよう、より低い速度まで減速しなければなりません。
その結果、ストレートエンドでの減速量が増え、コーナー中央の速度が下がり、出口で加速を始める速度も低くなります。
反対に、アウト・アウト・アウトでは、大きな旋回半径を保ちやすいものの、内側を使わない分だけ走行距離が長くなります。
そこで、進入ではアウト側を使って旋回半径を確保し、主要な減速を直進状態で行う。ターンイン後は、ブレーキ踏力を減らしながら舵角を増やしてインへ向かう。クリッピングポイント付近からは、舵角を戻しながらアクセル開度を増やし、出口のアウト側へ向かう。
この走り方であれば、走行距離を不必要に増やさず、タイヤの摩擦力を減速、旋回、加速へ有効に配分できます。
つまり、アウト・イン・アウトは、速く走るための独立した根本手法というよりも、減速、旋回、加速について導き出した一連の操作を行ったとき、タイヤが発揮できる摩擦力を最も有効に使いやすく、その結果として前後のストレートを含むコーナー区間のタイムを短縮しやすい走行ラインなのではないか——最近の理屈コネ太郎は、そのように考えています。
レイトクリップは出口側の加速を重視する
アウト・イン・アウト型の走行ラインの中で、出口側の加速により大きな比重を置いたものがレイトクリップです。レイトアペックスとも呼ばれます。
図3 アウト・イン・アウトのレイトクリップ

図1の基本的なアウト・イン・アウトでは、クリッピングポイントをコーナー中央付近に設定しています。
これに対してレイトクリップでは、コーナー外側をより長く走り、ターンイン地点とクリッピングポイントを出口側へ移します。
進入側では比較的短い距離でクルマの向きを変える必要があるため、旋回半径が小さくなり、進入速度や最低速度を少し下げなければならない場合があります。
その代わり、クリッピングポイント以降の走行ラインを直線に近づけやすくなり、ステアリングを早く戻せます。タイヤが旋回に使っていた能力を早い段階から加速へ移せるため、アクセルを早く、より大きく開けやすくなります。
レイトクリップの目的は、アクセルを踏んでいる距離を長くすることではありません。どの程度のアクセル開度を、どれだけ早い段階から使えるかが重要です。
大きな舵角を残したまま小さなアクセル開度で長く走るより、早くステアリングを戻し、大きなアクセル開度を使える方が、出口速度を高めやすくなります。長いストレートが続く場合、その速度差はストレート全体へ持ち越されます。
ただし、クリッピングポイントを遅らせれば遅らせるほど速くなるわけではありません。
遅らせすぎれば急激な方向転換が必要となり、最低速度を大きく下げたり、クルマの向きを変えきれなくなったりします。また、次のコーナーが反対方向へ続いている場合は、出口でコース幅を使い切ることが、次のコーナーへの進入を難しくすることもあります。
最適なクリッピングポイントは、後続ストレートの長さ、車両特性、路面状態、次のコーナーとのつながりによって変わります。
レイトクリップは固定された形ではなく、進入側と出口側のどちらへ速さを配分するかという考え方です。
トレイルブレーキを長く残すことが目的ではない
トレイルブレーキを覚えると、クリッピングポイント付近までブレーキを残すこと自体が目的になりがちです。
しかし、本来の目的は、必要な減速を行いながら車両の姿勢を整え、タイヤの摩擦力を減速目的から旋回目的へ滑らかに移すことです。
必要以上に強いブレーキを残せば、タイヤに減速と旋回の両方を要求しすぎます。反対に、ブレーキを早く離しすぎれば、アクセルもブレーキも使わない惰性区間が生じ、減速から旋回への流れが分断されます。
重要なのは、ブレーキを長く残すことではなく、必要な減速が終わる地点と、必要な旋回力が立ち上がる地点を滑らかにつなぐことです。
サーキットでは安全性が確保されているため、ブレーキング開始地点を遅らせる練習へ意識が向きがちです。しかし、最初から限界を探るような練習をする必要はありません。
余裕のある進入速度と、毎周確認できる一定のブレーキ開始地点を決め、直線制動からトレイルブレーキへ移る位置、舵角の増やし方、アクセルへの踏み替えを再現します。
その流れを安定して再現できるようになってから、ブレーキ開始地点や進入速度を少しずつ調整します。
速さを決めるのは、一度だけフルブレーキ開始地点を遅らせるようなことではありません。減速から旋回、旋回から加速までの流れを、毎周滑らかに再現できることです。