D.O.とは?|M.D.と並ぶ米国の医師資格とその意外な成り立ち

わたし理屈コネ太郎が、米国の医師資格について知って驚いた話を紹介します。

日本から米国に留学した医師が、D.O.という肩書きを持つ同僚が気胸の手術をしているのを見て驚いた、という話があります。

D.O.は、歴史的にはDoctor of Osteopathyと呼ばれていました。Osteo-という接頭語は「骨」を意味します。この名称からは、整骨やカイロプラクティックのような徒手療法を専門とする職業を連想します。

ところが、米国ではD.O.はM.D.(Doctor of Medicine)と同等の診療権限を持つ正規の医師なのです。

現在の正式な学位名称は、Doctor of Osteopathic Medicineです。

日本ではあまり知られていない資格ですが、米国の医療を担う医師の相当数が、このD.O.という学位を取得しています。

なぜ、骨を意味する名称を持つ医学学位が、内科から外科までを扱う医師の資格として成立しているのでしょうか。

この疑問を考えていくと、医師という職業の範囲は、何によって決まるのかという、医療制度の根本的な問題に行き着きます。

1.米国には二つの医学学位がある

米国には、正規の医師になるための代表的な医学学位が二つあります。

  • M.D.(Doctor of Medicine)
  • D.O.(Doctor of Osteopathic Medicine)

両者は異なる医学教育の経路を持っていますが、それぞれの医学部を卒業し、試験や卒後研修などの要件を満たして州の医師免許を取得すると、同等の診療権限が認められます。

内科、外科、産婦人科、精神科、救急医療など、あらゆる診療領域に進むことができます。

ここで重要なのは、医学学位と医師免許の関係です。

医学学位は所定の医学教育課程を修了したことを示し、医師免許は医療行為を行う法的な権限を与えます。さらに専門研修や医療機関で認められる診療権限が、個々の医師の実際の業務範囲を具体化します。

米国では州ごとに医師免許を発行し、その審査においてM.D.とD.O.の双方が正規の医学学位として認められています。

異なる学位を取得した人々に、同等の医師としての権限が与えられる。

これが米国のD.O.を理解するための出発点です。

2.D.O.はなぜ「骨」を意味する名称を持つのか

この資格の起源は、19世紀後半の米国にあります。

Andrew Taylor Stillは、当時の医学に疑問を持ち、身体の構造と機能の関係、各器官の相互作用、身体全体を捉えることを重視した医学体系を提唱しました。

これがOsteopathyの起源です。

Stillは1892年、ミズーリ州にAmerican School of Osteopathyを設立しました。現在のA.T. Still Universityにつながる、最初のオステオパシー医学学校です。

その後、この医学体系は教育内容と診療領域を拡張し、基礎医学、臨床医学、薬物療法、外科診療などを含む現代の医師養成課程へと発展しました。

現在のD.O.医学部では、一般的な医学教育に加えて、Osteopathic Manipulative Treatment(OMT)と呼ばれる徒手的な診断・治療技術も学びます。

筋骨格系の構造と機能を重視する教育的特徴が、今日まで受け継がれています。

つまり、D.O.という名称は、独自の医学体系が誕生し、その後、医学全般へと診療領域を広げてきた歴史を表しているのです。

3.Doctor of OsteopathyからDoctor of Osteopathic Medicineへ

D.O.という名称にも変遷があります。

初期の学位名称であるDiplomate in Osteopathyは、1900年にDoctor of Osteopathyへ変更されました。

1960年、米国オステオパシー医学会(AOA)は、専門職を表す言葉としてOsteopathic MedicineやOsteopathic Physicianを使用する方針を採用しました。

さらに1990年代半ばには、各医学部が卒業証書にDoctor of Osteopathic Medicineという名称を使用することが認められました。

現在、米国で正式に使用されるD.O.の学位名称は、Doctor of Osteopathic Medicineです。

この名称の変遷には、独自の治療思想に基づいて成立した医学体系が、現代医学全般を担う医師養成制度へと発展してきた過程が反映されています。

そして、名称が変わっても、略称のD.O.は維持されました。

医療制度の歴史が、わずか二文字の肩書きに残っているわけです。

4.2020年、卒後臨床研修の認定制度が統合された

M.D.とD.O.の関係を理解するうえで、近年の重要な制度変更があります。

2020年6月30日、米国ではM.D.系とD.O.系の卒後臨床研修プログラムの認定制度が統合され、ACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)が共通の認定機関となりました。

それまで両者には、それぞれの歴史に基づく卒後研修の認定制度が存在していました。

統合後は、M.D.とD.O.の卒業生が共通の認定体系のもとで専門研修を受ける仕組みとなっています。

一方、医学部段階の教育制度は二つの経路として存続しています。

医師免許に関する試験についても、M.D.課程では主としてUSMLE、D.O.課程ではCOMLEX-USAが用いられています。D.O.の学生がUSMLEを追加受験することもあります。

医学教育の経路は二つあり、卒後研修の認定制度は一つに統合されている。

これが現在の米国医師養成制度の特徴です。

歴史的に成立した二つの医学教育体系が、それぞれの学位と教育上の特徴を保ちながら、共通の専門研修制度につながっています。

5.D.O.は米国でどれほど一般的なのか

D.O.は現在、米国の医療を担う大きな集団に成長しています。

米国オステオパシー医学会が2026年9月に公表した統計によると、活動中と分類されるD.O.は151,240人、オステオパシー医学部の在学生は41,001人に達しています。

全米の医学生の4人に1人以上がD.O.の教育課程で学んでいます。

また、2026年の米国の卒後臨床研修マッチングでは、米国内の医学部最終学年の学生について、研修初年度(PGY-1)のマッチ率はM.D.課程が93.5%、D.O.課程が93.2%でした。

両者のマッチ率は全体として非常に近接しています。一方で、専門診療科別の進路分布や選抜状況には、それぞれの教育経路による違いが見られます。

ここで区別したいのが、医師としての法的権限と、職業上の社会的評価です。

前者は免許制度によって定まり、後者には社会的認知、専門領域ごとの評価、研修先や就職先での選抜などが関係します。

両者は異なる評価軸であり、社会的評価の実態を理解するには、それぞれに対応した情報が必要です。

M.D.とD.O.という二つの教育経路は、医師としての法的な地位を共有しながら、それぞれの歴史と職業上の位置づけを持っています。

6.米国には足病医という独立した専門職もある

米国の医療制度には、もう一つ興味深い資格があります。

D.P.M.(Doctor of Podiatric Medicine)です。

D.P.M.を取得したPodiatrist(足病医)は、足や足関節などの疾患を専門的に診療する医療職です。

一般に、大学での4年間の学部教育に続いて4年間の足病医学教育を受け、さらに3年間の病院での研修を行います。

外反母趾、扁平足、足部外傷、スポーツ障害、糖尿病性足病変などを扱い、州法で認められた範囲で手術も行います。

ここに、D.O.とは異なる資格制度の作り方が見られます。

D.O.は、独自の医学体系として成立した後、教育内容と診療領域を拡張し、医学全般を担う医師養成経路へと発展しました。

一方、D.P.M.は足という身体の特定領域を専門に扱う独立した資格制度として発展しました。

日本では、整形外科、形成外科、皮膚科、血管外科、糖尿病内科など、既存の診療科がそれぞれの専門性に基づいて足部疾患を担当しています。米国のD.P.M.に直接相当する独立した医師資格制度は設けられていません。

同じ身体の疾患を診療するために、国によって異なる専門職制度が発達してきたのです。

7.医師という職業の境界は、どのように決まるのか

ここまで見てくると、D.O.という資格が持つ意外性の正体が見えてきます。

人間の身体構造や疾病の成り立ちは、米国でも日本でも共通しています。医学は、こうした普遍的な対象を研究し、診断と治療の方法を発展させてきました。

一方、その医学を誰が学び、どのような資格によって実践し、どの範囲まで担当するかは、それぞれの社会が歴史の中で形成してきた制度によって決まります。

米国では、異なる歴史を持つ二つの医学教育体系から、同等の診療権限を持つ医師が養成されています。

さらに、足という身体部位については、独立した専門職制度も成立しています。

日本では、医師という共通の国家資格を基礎に、専門診療科がそれぞれの領域を分担する仕組みが発展してきました。

つまり、医療の専門職制度を理解するためには、医学的な対象、教育の経路、法的な診療権限、専門職間の分業という複数の要素を見ていく必要があります。

医学が何を扱うかは人体と疾病によって定まり、その医学を誰がどのように担うかは社会の制度によって定まるのです。

この視点から眺めると、医師という職業も、医学の発展と社会制度の形成が交わるところに成立した存在であることが分かります。

D.O.というわずか二文字の肩書きは、そのことを鮮やかに示しています。

日本から米国に留学した医師が、D.O.の同僚による気胸の手術を見て驚く。

その小さな驚きは、自分が当然だと思っていた医療制度の枠組みを、別の社会の歴史と制度から眺め直すきっかけになります。


参考資料


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筆者紹介ページは理屈コネ太郎の知ったか自慢|35歳で医師となり定年後は趣味と学びに邁進

作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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