はじめに|シングルハンドと桟橋係留は相性がよいのか
スラスターを持たない船内機仕様のヨットをシングルハンドで運用する場合、私は**マリーナの桟橋係留には「やや難あり」**と考えています。
私は約3年間、自艇をマリーナの桟橋に係留して運用してきました。
もちろん、桟橋係留そのものが不可能という話ではありません。実際、私自身も3年間続けてきました。
ただし、シングルハンドという条件で考えると、
- 常時海上係留による船底への付着物
- スラスターのないインボード艇での離着岸
という二つの問題が、次第に気になるようになりました。
本稿では、約3年間の実体験をもとに、ヨットのシングルハンド運用とマリーナ桟橋係留の相性について考えます。
1.常時海上係留では船底への付着を避けにくい
マリーナの桟橋に係留しているヨットは、基本的に船体の水中部分が常時海水に浸かった状態になります。
当然ながら、
- フジツボ
- 藻類
- その他の海洋生物
などが船底へ付着しやすくなります。
船底付着は帆走性能に影響する
船底に付着物が増えれば、水中抵抗も増えます。
ヨットは限られた風の力を利用して走る乗り物ですから、船体抵抗が増えれば、同じ風況でも艇速は低下しやすくなります。
動力船なら多少の抵抗増加をエンジン出力で補える場面もありますが、帆走では船底の状態が走りに比較的直接表れます。
したがって、
船底をできるだけ滑らかな状態に保つことは、帆走性能を維持するうえで重要
だと考えています。
船底塗料や清掃で対策はできる
もちろん、これは桟橋係留ではどうにもならない、という意味ではありません。
船底塗料を適切に施工すれば付着をかなり抑えられますし、定期的に上架して船底を清掃すれば、再びきれいな状態にできます。
しかし、桟橋係留では艇を常時海水中に置く以上、船底付着との付き合いそのものを避けることはできません。
帆走性能をできるだけ良好な状態に保ちたい私にとって、これは桟橋係留の一つの弱点になりました。
2.スラスターのないインボード艇は離着岸に気を使う
もう一つの問題は、離着岸です。
私の艇にはスラスターがありません。
インボードエンジンによって前後方向の推力は得られますが、バウスラスターのように、低速で艇首を直接横方向へ動かす装置はありません。
そのため、バース内での姿勢制御には、
- 前後進
- 舵
- 船体の慣性
- 風
- プロペラや舵の特性
などを組み合わせて対応することになります。
離着岸では低速なのに、やることが多い
マリーナ内では当然ながら低速で操船します。
ところが低速になるほど舵の効きは弱くなりやすく、その一方で風の影響は受け続けます。
さらに桟橋周辺では、周囲の艇や構造物によって風が乱れたり、反射波を受けたりすることもあります。
シングルハンドの場合には、
- 舵を操作する
- エンジンを操作する
- 周囲を確認する
- フェンダーを確認する
- 係留ロープを取る、あるいは外す
といった作業を、基本的に一人で処理しなければなりません。
クルーがいれば、
「このロープを取って」
で済むことも、一人なら自分で艇を適切な位置まで運び、自分でロープを処理する必要があります。
3.横方向へ直接修正できないことが負担になる
風で艇首や船尾が流れ始めたとき、スラスターがあれば低速のまま横方向の修正を行える場面があります。
しかし、スラスターのない艇ではそうはいきません。
一度姿勢が崩れると、
- 前進する
- 後進する
- 舵を使う
- 艇に動きを与える
といった操作によって修正する必要があります。
つまり、単純に「横へ少し戻す」という操作ができません。
もちろん、経験を積めば対応できる場面は増えます。
それでも、風の方向や強さが毎回同じとは限りません。
そのため私は、出入港のたびに、
今日は風がどちらから吹いているか
どういう手順で離岸・着岸するか
を考える必要があります。
関連記事
➡ 初心者向け着岸のコツ|ヨットをシングルハンドで扱う場合
4.「できる」と「気楽にできる」は違う
私は約3年間、実際にこの方法で桟橋係留を続けています。
ですから、
スラスターのないインボード艇をシングルハンドで桟橋係留するのは無理だ
と言うつもりはありません。
できます。
しかし、
できることと、気楽にできることは別です。
私の場合、毎回の出入港にある程度の気構えが必要です。
この負担は、帆を上げて風を読みながら走る楽しさとは性質が違います。
帆走そのものを楽しみにマリーナへ行っているのに、その前後にある離着岸の方を強く意識してしまう。
それが積み重なると、
シングルハンド運用としては、少し無理をしているのではないか
と思うようになりました。
5.スラスターを付ければ解決するのか
それならスラスターを付ければよい、という考え方もあります。
確かに、離着岸だけを考えれば有力な対策でしょう。
ただし、私はヨットを帆走させることそのものを楽しみたいので、装備を追加する際には、
- 重量増加
- 重量位置
- 船体への加工
- 電源設備
- メンテナンス対象の増加
なども気になります。
追加重量や重量配分の変化が帆走性能にどの程度影響するかは、艇や装備によって異なります。
したがって、スラスターを後付けすれば必ず帆走性能が悪化する、とまでは言えません。
ただ私自身は、離着岸を楽にするために設備を追加して艇を複雑にするよりも、保管方法そのものを見直す方に興味を持つようになりました。
6.船外機艇という選択にも別のトレードオフがある
船外機仕様であれば、インボード艇とは操船特性も変わります。
しかし、それも単純に「船外機なら解決」という話ではありません。
エンジン位置や重量配分、艇の設計思想そのものが異なるためです。
私が現在所有している艇を前提にすれば、
今の艇をどう改造するか
よりも、
今の艇をどのように保管・運用するか
を考える方が自然だと感じています。
7.私が考えた対策は「陸上保管」
そこで現在、私は自艇を陸上保管へ切り替える予定です。
陸上保管であれば、少なくとも常時海水中に置かれることによる船底付着の問題は大きく変わります。
また、桟橋のバースへ毎回シングルハンドで離着岸するという運用からも離れることになります。
もちろん、陸上保管には陸上保管の問題があるでしょう。
- 上下架の手間
- マリーナの営業時間
- 出航までの準備
- 費用
- 艇種やマリーナ設備による制約
など、実際に運用してみなければ分からないこともあるはずです。
そのため、
陸上保管の方が絶対に優れている
と現時点で結論づけるつもりはありません。
実際に運用してみたうえで、その感想は改めて報告したいと思います。
まとめ|桟橋係留は可能だが、シングルハンドでは負担もある
約3年間、ヨットをマリーナの桟橋に係留してシングルハンドで運用してきた結果、私は桟橋係留を**「やや難あり」**と感じるようになりました。
理由は大きく二つです。
第一に、常時海上係留によって船底に付着物が生じやすく、帆走性能を良好な状態に維持するための管理が必要になること。
第二に、スラスターを持たないインボード艇では、シングルハンドでの離着岸に一定の技術と集中力を求められることです。
どちらも致命的な問題ではありません。
実際、私は3年間運用できました。
しかし、
運用できるかどうかと、その運用方法が自分の目的に合っているかどうかは別問題です。
私の場合、ヨットではできるだけ帆走そのものを楽しみたい。
その観点から考えると、桟橋係留よりも陸上保管の方が、自分のシングルハンド運用には合っているのではないか。
現在はそう考えています。
本稿は、約3年間のマリーナ桟橋係留を経験した現時点での私見です。
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