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1. 米国を代表するスポーツフィッシング艇ブランド
米国のボートビルダー、**Bertram Yachts(バートラム)は、単なる高級フィッシングボートのブランドではない。ブランドの核心にあるのは、「荒れた海で速く、安全に走る」**という、極めて実用的な思想である。
外洋フィッシャーに興味のある日本人に、もっとも馴染のある会社のひとつだろう。
現在の本拠はフロリダ州タンパ。公式サイト上でも Bertram Yachts LLC として、28CC、34CC、39CC、35 Flybridge、50 Sport、61 Convertible などのモデルを展開している。つまりバートラムは、現在も米国を拠点に活動するスポーツフィッシング/オフショア系ボートブランドである。
ただし資本面では、2015年以降、イタリアのガヴィオ家/Baglietto系の傘下にある。
出典:Bertram Yachts 公式サイト
2. 起源――マイアミ=ナッソー・レースから始まった伝説
バートラムの起源は、1960年のマイアミ=ナッソー・パワーボートレースにある。
創業者リチャード、通称ディック・バートラムは、マイアミのヨットブローカーであり、セーリングとパワーボートレースの世界に通じた人物だった。彼がC・レイモンド・ハントの設計したディープV船型に可能性を見いだし、31フィート級の木造プロトタイプ「Moppie」を走らせたことが、ブランドの神話の始まりである。
1960年の同レースでは、8フィート級の波と30ノット級の風という厳しい条件のなか、Moppieが172マイルのコースを制し、後続を大きく引き離した。この勝利によって、バートラムの名は**「荒れた海に強い船」**として一気に知られるようになった。
出典:Soundings – Bertram Reborn
3. ボート作りの特徴――ディープVが生んだ外洋性能
初期バートラムの技術的な核は、ハント由来のディープVハルにある。
特にBertram 31は、船尾側が平らになりやすかった当時のプレーニング船型とは異なり、深いV形状で波を切り、荒天時の直進性と乗り心地を高めた。Soundingsは、Moppieの船型について一定の24度デッドライズを備え、従来型の船底より荒れた海で安定して走れたと説明している。
のちにバートラムの大型艇は、より大きな重量や滑走性能に合わせて船尾側の角度を調整していくが、**「外洋で叩かれにくく、釣り場まで走れる船」**という思想は変わらなかった。
出典:Soundings – 50 Years of Bertram
4. ブランドの性格――豪華さよりも、耐久性と実用性
バートラムのボート作りは、豪華さよりも先に、まず耐久性、外洋性能、実釣性能で語られる。
初期の艇はレーシング、フィッシング、クルージングに使われたが、時代が進むにつれてスポーツフィッシングが中核になった。広いコックピット、実用的なレイアウト、荒天での安心感、そして「多少過剰なくらい頑丈」と評される作り込みが、オーナーの忠誠心を支えた。
1970年代から1980年代にはBertram 46や54が人気を集め、54は近代バートラムの象徴的モデルのひとつになった。
出典:Soundings – 50 Years of Bertram
5. 資本関係の変遷――名門ブランドをめぐる所有者の交代
資本関係の歴史を見ると、バートラムは一貫した家族企業というより、名声あるブランドが何度も所有者を替えながら生き延びてきた会社である。
1960年代後半にはWhittaker Corporationの傘下に入り、同社の下で1970年代から1980年代前半にかけて大きく成長した。1985年にはWhittakerがBertramを含む複数のマリン関連事業の持分をInvestcorpに売却し、Bertram-Trojan Inc.という枠組みで運営されるようになった。
出典:Soundings – 50 Years of Bertram
6. 経営危機――1990年代の倒産危機
しかし、1980年代末から1990年代初頭にかけて、米国の景気後退と高額艇に対するラグジュアリー税が米国ボート業界を直撃した。
バートラムも例外ではなく、1992年にChapter 11、つまり連邦倒産法第11章の適用を申請する事態に追い込まれる。かつて1,200人規模だったヤードが30人程度まで縮小したとされ、ブランドは存続の瀬戸際に立った。
その後、イタリアのGruppo Varasiがバートラムを買い取り、資金を注入して再建を試みたが、1997年にはその保有会社SantavalariaがTeknecomp、のちのIntekに移り、1998年にはイタリアのFerretti Groupへ売却された。
出典:Soundings – Bertram Reborn
7. Ferretti時代――大型化と再建、そして再び不安定化
Ferretti時代のバートラムは、より大型で高級なスポーツフィッシャーマンへと軸足を広げた。Ferrettiは1998年にバートラムを取得し、Bertram 80のような大型艇をフラッグシップに据えた。
2012年には、50年続いたマイアミからメリットアイランドへの移転が発表され、37エーカーの新施設で、低排出のラミネーションやインフュージョン技術を取り入れる構想も掲げられた。
しかし、この再建策は長期安定にはつながらず、2014年夏にはメリットアイランドのリース工場を閉鎖。バートラムファンの間では、ブランドがこのまま終わるのではないかという不安が広がった。
出典:Boat International – New Ownership for Bertram Yachts
8. Gavio Groupによる再出発――タンパを拠点に再建へ
転機は2015年に訪れる。イタリアのGavio GroupがFerretti Groupからバートラムを取得したのである。
Gavio GroupはBagliettoなども擁する造船・ヨット関連のグループで、買収後は米国でのブランド再建を掲げた。2016年にはフロリダ州タンパ湾岸のウォーターフロント施設を取得し、新造艇の建造だけでなく、整備・リフィットも担う国際本部として位置づけた。
現在のタンパ拠点は、バートラムが**「米国ブランド」**として再出発するための重要な土台になっている。
出典:Boat International – New Ownership for Bertram Yachts
9. 米国のDNAとイタリア資本
興味深いのは、現在のバートラムが**「米国のDNA」と「イタリア資本」**の間でバランスを取っている点だ。
Bagliettoは2022年、欧州市場向けにBertram Europe部門を立ち上げると発表したが、その際にもバートラムは「100% American product」であり、ブランドのDNAは米国製に残ると説明している。
つまり、資本と一部の欧州展開はイタリア側に支えられながらも、ブランド価値の中心はあくまでアメリカン・スポーツフィッシャーマンにある。
出典:Baglietto – Bertram Europe
10. 現状――伝統を現代的に再解釈するブランドへ
現在のバートラムは、往年の大量生産型メーカーというより、伝統を現代の設計・素材・快適性で再解釈するブランドになっている。
センターコンソール系の28CC、34CC、39CC、クラシックを現代化した35 Flybridge、そして50 Sport、61 Convertibleといったオフショア/スポーツフィッシング艇を並べ、公式サイトでも**「厳しい条件で信頼できる船」**というメッセージを前面に出している。
2026年時点で本社所在地は5250 West Tyson Avenue, Tampa, Floridaと示されており、ブランドは操業を続けている。
出典:Bertram Yachts 公式サイト
11. 結論――バートラムとは、荒れた外洋に向かうための船である
バートラムの歴史は、米国ボート産業そのものの浮沈とも重なる。
レースで生まれ、ディープVで市場を変え、スポーツフィッシングの名門となり、景気後退と税制で倒産の危機に沈み、イタリア資本のもとで何度も再建された。
だが、ブランドを語るうえで最も大切なのは、所有者の名前よりも、船の性格である。
バートラムとは、穏やかな湾内を飾るためのボートではなく、荒れた外洋に向かうためのボートだ。その一点が、創業から半世紀以上を経た現在も、このブランドを名門たらしめている。
