私は、セイリング、ボート操船、サーキット走行を同じシューズでこなしています。本記事では、その立場からギアとしてのシューズについての私見をまとめます。
船に乗るときとクルマを運転するときで靴を履き替えない、かなりずぼらな運用です。ただし、この運用に適した一足にたどり着くまでには、20足ほどのシューズを実際に使って評価しました。
私がシューズに求める仕事は、大きく次の三つです。
- 艇上や桟橋で十分なグリップを得る
- 金具、装備、艇体との接触から足を守る
- 素足に近い感覚でペダルを操作する
この記事では特定の製品を紹介するのではなく、セイリング、ボート操船、サーキット走行を同じシューズでこなすために必要な道具要件を、実際の運用経験から整理します。
艇上では足の保護とグリップを靴に任せる
ヨットやボート関連の動画では、素足やビーチサンダルで操船する姿を見かけます。私見ですが、これらは船上らしい軽快な印象の演出か、一種の格好つけだと思います。
私の使用環境では、素足やビーチサンダルを選びません。
ヨットには、クリート、ブロック、レール、ロープ、ハッチ、段差など、足をぶつけたり踏んだりする可能性のある物が各所にあります。ボートでも、船内外を移動し、桟橋との間を乗り降りし、揺れる艇上で姿勢を維持します。
艇が動けば、足を置こうとした場所と実際に着地する場所がずれることもあります。足をぶつけた痛みで姿勢を崩せば、転倒や落水につながります。
そのため私は、金具や艇体との接触から足を守り、揺れる艇上で姿勢を維持する仕事を靴に任せています。
足を覆うだけでは、この仕事は成立しません。靴そのものが滑れば、姿勢を支える道具として役割を果たせないからです。艇上では、足の保護とグリップを一体の性能として考える必要があります。
三つの性能は単純には両立しない
足の保護、グリップ、繊細なペダル操作は、それぞれ独立した性能ではありません。
足を強く守ろうとすれば、靴底やアッパーは厚く、硬く、重くなりやすくなります。靴底を薄く柔らかくすれば、足裏の感覚は得やすくなる一方、接触時の保護性能は限られます。
グリップも、強ければ強いほどよいとは限りません。艇上では滑りにくさが重要ですが、自動車のペダル上で靴底が強く引っかかると、アクセルとブレーキの間で足を動かしにくくなります。
したがって、一つの性能を最大化するのではなく、自分の使用環境で三つの仕事が同時に成立するバランスを探すことになります。
グリップは場所と状態によって変わる
シューズのグリップは、「滑りにくい」という一語では評価できません。
同じ靴でも、接する場所によって感触が変わります。
- 乾いたヨットのデッキ
- 海水や雨で濡れたデッキ
- ボートの船内床
- 桟橋
- 舗装路や地面
- 自動車のペダル
乾いた床では十分にグリップしても、濡れると急に滑りやすくなる靴があります。デッキでは安定していても、船内の床材との相性がよくない場合もあります。
靴底に細かな溝があれば、濡れた場所に強そうに見えます。大きな突起があれば、地面をしっかり捉えそうにも見えます。
実際のグリップには、靴底の素材、硬さ、表面の状態、突起の形状と変形、床材との組み合わせ、水分、汚れ、荷重のかけ方が関係します。新品の状態と、表面が摩耗した後でも感触は変わります。
カタログ上の「防滑」や「グリップ性能」という表示は、候補を選ぶ材料になります。実際に使う床面で同じ性能を発揮するかは、別に確かめる必要があります。
ヨットでは横方向のグリップも重要になる
ヨットでは、床面の状態に加えて、力が加わる方向も重要です。
私が試したシューズの中には、デッキ上を前後方向に歩くときには比較的しっかりグリップする一方、艇がヒールして足に横方向の力が加わると、滑りやすくなるものがありました。
横荷重がかかったときに、靴底の突起が傾くような感触があり、足裏全体を安定して支えられなくなります。靴底の模様は滑りにくそうに見えても、突起の高さ、硬さ、間隔、変形の仕方によって、横方向の安定性は変わります。
平らな店内をまっすぐ歩くだけでは、この違いは分かりません。
ヨット用として評価するには、前後方向の歩行に加え、艇の傾きに対して横方向へ荷重をかけたときにも、靴底が安定して接地することが必要です。
足を守りながら、足裏の感覚を残す
艇上では、靴のアッパーにも仕事があります。
つま先、甲、かかと、足の側面を覆い、金具や艇体に接触した際の衝撃を和らげます。足にしっかり固定され、急な艇の動きでも脱げにくいことも重要です。
一方、硬く厚い靴は足の動きを制限します。
デッキの傾きや段差を足裏で感じにくくなり、狭い場所での体重移動も大きくなります。サーキット走行では、さらにペダルの位置と反力を細かく感じ取る必要があります。
私が求めているのは、素足よりも高いグリップを持ちながら、充分な保護性能と素足に近い繊細な感覚を残すシューズです。
保護性能と素足感覚の両方を最大化することは困難です。どの程度の厚さと硬さなら感覚を保てるか、どの程度の保護が自分の艇上運用に必要かを、実際に履いて判断します。
サーキット走行では足を動かす自由が必要になる
スポーツドライビングでは、アクセル、ブレーキ、クラッチを正確に操作する必要があります。
ヒール&トーでは、ブレーキを踏みながら足の一部を動かし、アクセルを操作します。靴底が厚すぎると、ペダルの位置や反力を感じにくくなります。前足部が広すぎれば、隣のペダルに触れやすくなります。
靴底外周の張り出しや突起がペダルに引っかかれば、足を滑らかに移動できません。かかとの形状が大きく角張っていれば、床面との接触が足首の動きを妨げることもあります。
ヨットのデッキで強いグリップを発揮する靴底が、そのままペダル操作にも適するとは限りません。一足で共用するには、床を捉える力と、足を動かす自由の両方が必要です。
約20足の実地評価で分かったこと
私は現在の一足運用にたどり着くまでに、20足ほどのシューズを実際に使って評価しました。
靴店での試着だけで選んだわけではありません。ヨットやボートで使い、桟橋や地面を歩き、クルマを運転し、それぞれの環境で感触を確かめました。
その過程では、一つの用途で好印象だった靴が、別の用途では条件に合わないことが何度もありました。
乾いた場所では安定していても、濡れたデッキでは滑る。前後方向には強くても、ヨットがヒールした際の横荷重には弱い。艇上では使いやすくても、靴底が厚く、ペダルの感覚が遠い。グリップは十分でも、ペダル上で引っかかる。軽く柔らかくても、足の保護に不安が残る。
こうした違いは、商品カテゴリー、ブランド名、靴底の外観だけでは判断できません。
約20足を試した経験から得た最大の学びは、シューズの性能は靴単体で決まるのではなく、足、床面、艇の動き、ペダル、使い方との組み合わせで決まるということです。
一足運用を成立させる道具要件
これまでの経験をまとめると、セイリング、ボート操船、サーキット走行を同じシューズでこなすための要件は次のようになります。
- 乾いたデッキと濡れたデッキの両方でグリップする
- 前後方向だけでなく、横荷重でも靴底が安定する
- 船内床、桟橋、地面でも極端に滑りやすくならない
- つま先、甲、かかと、足の側面を覆う
- 足に固定され、艇の動きで脱げにくい
- 靴底が厚すぎず、ペダルの位置と反力を感じられる
- 靴底が広すぎず、隣のペダルへ干渉しにくい
- ペダル上で滑りすぎず、引っかかりすぎない
- かかとを支点に、足首と前足部を自然に動かしやすい
- 濡れても過度に重くならない
- 海水使用後に真水で洗いやすく、乾燥させやすい
- 傷みや紛失が起きた際に更新できる価格である
一足ですべてを賄う運用では、どれか一つの性能に特化するよりも、各条件が大きく破綻しないことが重要です。
私にとって良いシューズとは、この一連の使用環境の途中で、自分に任された仕事を放棄しないシューズです。
一足運用が成立する気候と使用範囲
私は東京湾と相模湾を中心に、セイリングやボーティングを楽しんでいます。
この海域と私の使い方では、足の保護、濡れた場所でのグリップ、ペダル感覚の三つを中心にシューズを選べます。
寒冷地では、シューズに求める仕事が増えます。
低温下での保温、雨や海水を内部へ通しにくい防水性、濡れた状態で足を冷やさないこと、厚い靴下を履いた状態でのフィットなどが必要になります。
保温性と防水性を高める構造は、靴を厚く、重く、硬くしやすくなります。足裏へ伝わるペダルの感覚や、ヒール&トーに必要な足の動かしやすさとの両立も難しくなります。
私の一足運用は、東京湾・相模湾を中心とする気候と使用条件の中で成立している方法です。寒冷地や厳冬期では、マリン用途とスポーツドライビングを分けた方が、各用途に必要な性能を確保しやすくなります。
商品カテゴリーより、実際に任せる仕事で選ぶ
マリンシューズ、デッキシューズ、ウォーターシューズ、ドライビングシューズには、それぞれ想定された用途があります。
商品カテゴリーは、候補を探す入口として役立ちます。その後は、自分が靴に任せる仕事を果たせるかで判断します。
マリン用として販売されていても、横荷重で靴底が不安定になれば、私のヨットでは使いにくくなります。ドライビング用として優れた薄いシューズでも、艇上の金具や装備から足を守る性能が不足する場合があります。
店頭では、足へのフィット、重量、靴底の厚さ、曲げやすさ、外形などを確認できます。濡れたデッキでのグリップ、横方向の荷重、ペダルとの相性は、実際の環境で使うことで初めて分かります。
自分の使用環境で満足できる一足を探す
シューズには、足を守り、素足より高いグリップを確保しながら、素足に近い繊細な感覚を残すことを求めます。
そのバランスは、足の形、艇のデッキ、海域、季節、クルマのペダル配置、運転方法によって変わります。
私は、乾いた状態と濡れた状態、前後方向と横方向、艇上とペダル上で実際に使い、一足ずつ評価しました。その結果として、セイリング、ボート操船、サーキット走行を同じ一足でこなせるシューズにたどり着きました。
必要なのは、ヨット用、ボート用、ドライビング用という名称への適合ではありません。
自分がシューズに任せる仕事を整理し、その仕事を自分の使用環境で継続して果たせるかを確かめることです。最終的には、足の保護、縦横方向のグリップ、素足に近い感覚のバランスに自分が満足できる一足を、自分で見つけることになります。
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