【医師向け】医療機関向けコンサルタントは誰のために働くのか|コンサルティングを装うセールス

ある診療所が、業務の効率化を考えているとします。

院長は、電子カルテが使いにくい、医療事務職員の採用が難しい、受付から会計までの流れに無駄が多いと感じています。

そこへ医療機関向けコンサルタントが現れます。

院内を調査し、職員から話を聞き、次のように提案します。

「電子カルテを入れ替えた方がよいでしょう」

「医療事務は外部へ委託した方が効率的です」

「当社のネットワークに、御院に適した会社があります」

院長は、自院のために選ばれた中立的な助言だと考えます。

しかし、電子カルテ会社はコンサルタントの提携先で、医療事務の受託会社は系列会社でした。契約が成立すると紹介料や販売手数料が入り、その後も利用料、派遣料、業務委託料が継続します。

このとき医療機関が受けたものは、コンサルティングなのでしょうか。

それとも、コンサルティングという名称を使ったセールスなのでしょうか。

医療機関・コンサルタント・販売会社

この記事には三者が登場します。

第一は、相談を持ち込む医療機関です。

第二は、問題を分析し、解決策を提案するコンサルタントです。

第三は、電子カルテ、人材派遣、業務受託、保険、不動産、法人設立などを販売する販売会社です。

本来のコンサルティングでは、医療機関がコンサルタントへ報酬を払い、コンサルタントは医療機関の側に立って販売会社を評価します。

ところが、コンサルタントが販売会社からも報酬を受け取ると、関係は次のようになります。

医療機関
↓ コンサルティング料
コンサルタント
↑ 紹介料・販売手数料
販売会社

この構造自体が、直ちに不当というわけではありません。

問題は、販売会社との関係や報酬の存在が医療機関に伝えられず、コンサルタントが独立した助言者として受け取られることです。

コンサルティングとセールスの違い

セールスは、自社や提携先の商品を売る仕事です。

販売担当者は、商品が売れることで利益を得ます。顧客もそのことを知っています。

一方、コンサルティングは、顧客が何を選ぶべきか、そもそも何かを購入する必要があるのかを判断する仕事です。

コンサルタントは、

  • 現状を維持する
  • 院内の業務手順を変える
  • 職員を再教育する
  • 新しい職員を採用する
  • 業務を外部委託する
  • システムを更新する
  • 何も購入しない

という選択肢を比較します。

両者の違いは肩書ではありません。

セールスは、商品を売る側に立ちます。
コンサルタントは、商品を選ぶ側に立ちます。

相手の肩書で、医療機関の構えは変わる

電子カルテ会社の営業担当者が、

「当社の製品を導入すれば効率化できます」

と説明した場合、院長は営業上の主張として聞きます。

本当に必要なのか。他社製品より優れているのか。価格は妥当か。保守費用や解約費用はいくらか。都合の悪い情報が隠されていないか。

他社からも見積りを取り、価格を比較し、交渉します。

相手が売り手だと分かっているからです。

一方、相手を中立的なコンサルタントだと思うと、院長の構えは変わります。

人件費、職員間の対立、採用の失敗、請求上の弱点、資金繰り、経営知識への不安など、通常の販売会社には見せない情報まで開示します。

さらに、解決策を選ぶ役割だけでなく、何が問題なのかを定義する役割まで委ねます。

「電子カルテが問題です」と言われれば、更新が検討課題になります。

「医療事務の内製が問題です」と言われれば、外部委託が解決策になります。

「職員の意識が問題です」と言われれば、研修や人事評価制度が商品になります。

通常の販売会社は、自社の商品を売ります。

中立的な助言者として受け取られた販売者は、まず問題を定義し、その解決策として商品を売ることができます。

医療機関向けコンサルティングが販売へ傾きやすい理由

日本の保険医療では、診療行為の価格を医療機関が自由に決められません。診療報酬は、国が定める点数表や施設基準に基づいて算定されます。

そのため、一般企業のように、便益を追加し、その分だけ価格を上げることには限界があります。

医療機関向けコンサルタントが提案できる収益改善策は、主に次の範囲です。

  • 算定漏れを減らす
  • 施設基準を取得する
  • 患者数や設備稼働率を上げる
  • 人員配置や業務手順を見直す
  • 材料費や委託費を下げる
  • 保険診療外の事業を始める

これらには意味があります。

しかし、明らかな請求漏れや業務上の無駄を一度解消すれば、同じ改善を何度も販売することはできません。

医師は経営を学ぶ機会が少なかったとしても、高度な学習と判断の訓練を受けています。一度、財務、人事、業務設計、設備投資の考え方を理解すれば、院長自身で判断できる領域も増えます。

純粋なコンサルティングは、成功するほどコンサルタントを不要にします。

そこで、助言を入口として、別の商品や継続業務を受注するモデルが成立します。

コンサルティングを入口にした受注モデル

典型的な流れは四段階です。

1.経営相談を持ち込む

「業務効率化」「経営改善」「院長を診療に集中させる」といったテーマで医療機関へ接触します。

2.問題を発見する

設備、人員、業務手順を調査し、問題を指摘します。

分析が正しいこともあります。

ただし、販売できる商品によって、発見される問題が左右される可能性があります。

電子カルテを販売できれば、電子カルテの問題が見つかります。

人材会社と提携していれば、内製人員の問題が強調されます。

研修を販売できれば、職員教育の不足が問題になります。

3.解決策を指定する

電子カルテの更新、医療事務の外注、人材派遣、研修、MS法人の設立などを提案します。

提案先が系列会社や提携会社に限られているなら、市場全体から選んでいるわけではありません。

自社の販売網の中から、販売できる商品を選んでいます。

4.継続契約を受注する

電子カルテなら、導入支援料、利用料、保守料が発生します。

医療事務の外注なら、派遣料や業務委託料が続きます。

MS法人なら、会計、税務、給与計算、不動産管理、保険、リースなどの契約が生まれます。

このモデルの実体は、

経営相談

問題の定義

特定商品の提案

外部発注

長期契約

です。

コンサルティングは、販売前の診断、すなわちプリセールスとして機能します。

電子カルテ、医療事務、MS法人

電子カルテ

電子カルテの選定には、診療科、患者数、既存機器、予約方法、会計方法などの理解が必要です。専門家へ相談する合理性はあります。

しかし、選定者が特定メーカーから販売手数料を受け取れば、医療機関に最適な製品より、手数料が発生する製品を勧める誘因が生じます。

電子カルテの選定は、単なる機器選びではありません。

医療機関が今後、どの会社へ継続的に料金を支払うかを決める行為です。

医療事務の外注

医療事務を外部化すれば、採用、教育、欠員補充の負担を減らせる可能性があります。

一方、コンサルタントが系列会社への外注を前提に分析すれば、院内職員を教育する案と外注案が公平に比較されるとは限りません。

系列会社の人材を毎月供給する方が、長期的な売上になるからです。

また、業務委託と労働者派遣は別物です。医療機関が受託会社の職員へ直接指揮命令を行えば、契約名が業務委託でも、実態は労働者派遣や偽装請負と判断される可能性があります。

MS法人と節税

MS法人は、法律上の特別な法人類型ではありません。医療機関の周辺業務を行う営利会社を指す実務上の呼称です。

実際に人員や設備を持ち、医療事務、IT、不動産管理、物品供給などを行う会社なら、合理的な分業を実現できます。

一方、MS法人の設立自体が商品になることもあります。

設立後には、会計、税務、給与計算、保険、不動産、リース、相続対策など、多数の継続契約が生まれるからです。

医療法人からMS法人へ管理料を支払えば、医療法人の利益は減ります。しかし、両法人を合算した経済価値が増えたとは限りません。

二法人分の管理費、税負担、社会保険料まで含めて判断する必要があります。

また、個別の税務判断を業として行える者は、原則として税理士などに限られます。誰が税務判断を行い、誰が責任を負うのかも確認すべきです。

販売すること自体が問題なのではない

電子カルテ会社は電子カルテを販売します。

人材会社は人材を派遣します。

税理士は税務顧問を受注します。

保険代理店は保険を販売します。

販売者として立場を明確にし、価格とサービス内容を提示するなら、通常の商取引です。

一社が分析から導入、運用まで担当することで、責任の所在が明確になる場合もあります。

正直な説明は、次のようなものです。

当社は医療機関向けの業務受託会社です。業務分析を行い、当社または提携会社の商品を提案します。契約が成立すれば、当社または提携会社に収益が発生します。

この説明なら、医療機関は相手を販売者として評価できます。

問題は、紹介先が事実上固定され、紹介料や販売手数料も開示されていないのに、中立的な専門家として受け取られることです。

本人も自分をセールスだと思っていない

この問題を、悪意だけで説明すると実態を見誤ります。

医療機関向けコンサルタントの中には、自分が事実上のセールスを行っていると認識していない人もいます。

彼らは医療機関の悩みを聞き、電子カルテ会社、人材会社、研修会社、保険会社、税理士などを紹介します。

そのサービスが役立てば、自分は専門的な助言を行ったと考えます。

本人には、ほとんど邪気がありません。

よい会社を知っている自分が紹介し、契約後も調整する。
その対価を受け取るのは当然である。

そのように理解しています。

他領域で、販売者から独立したコンサルティングを経験していなければ、提携先の商品を紹介し、その契約によって報酬を得る仕事も、本人にとってはコンサルティングです。

周囲の同業者も同じ方法で働き、社内では「営業」ではなく、「経営支援」「ソリューションの提供」「専門家ネットワークの活用」と呼ばれます。

その環境では、

コンサルタントとは、顧客の問題を聞き、それを解決できる商品や業者を紹介する仕事である

と理解するようになります。

本人に悪意がなくても、利益相反は消えません。

本人が中立だと信じていても、比較対象が提携会社だけなら、市場全体から選ばれた提案ではありません。

問うべきなのは人柄ではなく、

誰から報酬を受け取り、誰の商品を販売し、誰の利益を代表しているのか

という職業上の立場です。

この問題は、悪質な一部業者だけの問題ではありません。

コンサルティングとセールスの区別を学ばないまま、善意でセールスを続けられる業界構造の問題です。

四種類の事業者を区別する

医療機関向けコンサルタントを一括して否定する必要はありません。

少なくとも、次の四種類は分けるべきです。

1.独立したコンサルタント

医療機関から報酬を受け取り、販売会社から紹介料や販売手数料を受け取りません。

何も購入しないという結論も選べます。

2.コンサルティング機能を持つ販売会社

自社の商品や業務を販売することを明示し、その導入前に業務分析も行います。

中立ではありませんが、立場は明確です。

3.報酬関係を開示する仲介者

複数の販売会社を比較し、契約成立時に紹介料を受け取ることを説明します。

医療機関は、利益相反を理解したうえで提案を評価できます。

4.販売者としての立場を明示しないコンサルタント

医療機関からコンサルティング料を受け取りながら、提携先からも紹介料や販売手数料を受け取ります。

紹介先の限定や報酬関係を開示せず、医療機関から独立した専門家として受け取られます。

意図的な場合もあれば、本人自身が中立的なコンサルタントだと信じている場合もあります。

問題になるのは、主として第四の事業者です。

「多数のネットワーク」をどう見るか

重要なのは、提携企業の数ではありません。

ネットワーク外の会社が最も適していた場合にも、推薦できるかどうかです。

推薦できないなら、それは情報網ではなく販売網です。

何も購入しないことが最善である場合に、「今回は発注しない方がよい」と助言できるかも重要です。

外部発注がなければ利益が生じない仕組みでは、本人に自覚がなくても、提案は何かを購入させる方向へ傾きます。

医療機関が確認すべきこと

外部サービスを提案された医療機関は、次の点を確認すべきです。

  • コンサルタントと推薦先に資本関係や提携関係があるか
  • 紹介料、販売手数料、継続報酬が発生するか
  • 提携先以外の会社も比較したか
  • 院内改善、現状維持、何も購入しない案も検討したか
  • 導入費だけでなく、維持費、解約費、乗換え費用まで示したか

最も直接的な質問は、次のものです。

この提案を採用した場合、あなたとあなたの関係会社は、最終的にいくら受け取るのですか。

この質問に明確に答えられない相手を、中立的な助言者として扱うことは難しいでしょう。

肩書ではなく、報酬の流れを見る

医療機関向けコンサルティングには、有用な仕事があります。

経営知識を補い、院内の問題を可視化し、合理的な設備投資や業務改善を支援する専門家もいます。

コンサルティングと商品販売を同じ会社が行うことにも、実務上の利点があります。

したがって、医療機関向けコンサルタントを一律に否定する必要はありません。

販売者は、販売者として名乗ればよいのです。

仲介者は、仲介手数料を開示すればよいのです。

自社の商品を提案するなら、その事実を説明すればよいのです。

問題は、売り手側の報酬構造を持ちながら、買い手側の専門家として受け取られることです。

そして、この問題は必ずしも悪意から生まれるわけではありません。

善意は、利益相反を解消しません。

邪気のなさは、説明責任を免除しません。

コンサルタントの本当の立場は、名刺の肩書にも、本人の自己認識にも表れません。

その提案によって生じる報酬の流れに表れます。


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作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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