中高年の「人材価値更新」とは何か
中高年になってから人材価値を更新するなら、私はプログラミングと心理学の二つをおすすめします。
もちろん、有用な知識や技能はほかにもあります。
それでもこの二つを挙げるのは、現在持っている専門性と組み合わせやすく、仕事のやり方そのものを変えたり、人間を理解する力を高めたりできるからです。
そして2026年現在、プログラミングを学ぶ意味は、この記事を最初に書いた頃とはかなり変わりました。
AIがコードを書く能力は大幅に向上し、現在のコーディングエージェントは、コード生成だけでなく、既存コードの調査、実装計画、修正、テスト、レビューまで行えるようになっています。
では、
AIがコードを書いてくれるなら、人間がプログラミングを学ぶ必要はなくなったのか。
システムやアプリを作る…という意味では減ったかも知れません。しかし、構想・プロンプト入力、実証などの、より高次な領域で抽象度の高いプログラミングに関する能力はより重要性を高めるでしょう。
AI時代には、プログラミングの知識が、AIに何をさせるかを考え、仕事を適切な単位に分解し、出てきた結果を評価するための基礎能力になりつつあります。
中長期的には「第二の専門領域」が役に立つ
人間の寿命が長くなれば、社会人として活動する期間も長くなります。
一つの専門領域だけを何十年も磨き続ける生き方もありますが、その専門性に別の能力を組み合わせることで、新しい価値を作れる場合があります。
たとえば、
本来の専門分野 × AI活用×プログラミング
あるいは、
本来の専門分野 × AI活用×心理学
です。ちなみにAI活用は専門領域にはこの記事では含まれません。AI活用は業務上必要に迫られて習熟せざるを得ないスキルだからです。
二つの専門性が交差する領域では、単純な競争相手が一気に減ります。
医療だけを知る人、プログラミングだけを知る人は大勢いても、医療実務を知り、その業務をAIを利用しながら自分でプログラムへ落とし込み業務実装できる人は極端に少なくなる。
金融だけを知る人、心理学だけを知る人より、金融実務と人間の意思決定の両方を理解する人の方が、扱える問題の種類は増えます。
特に、シミュレーションを使った意思決定には、
私は、このような専門性の掛け算が、中高年の人材価値を更新する一つの方法だと考えています。
三内丸山遺跡から考える「長い人生をどう使うか」
いきなりですが、青森県にある三内丸山遺跡をご存じでしょうか。
縄文時代前期から中期、現在から約5900~4200年前に営まれた大規模な集落跡です。
当時と現代の寿命を単純に比較することはできません。
ただ、これほど古い時代にも、人間は食べて生き延びるだけではなく、集落を作り、道具を作り、交易し、社会を形成していました。
現代の私たちは、そこからさらに長い人生を生きます。
2022年の日本の平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳、健康寿命は男性72.57歳、女性75.45歳です。
つまり、50代になっても、まだかなり長い時間が残っています。
その時間を、
「これまで身につけた能力だけで逃げ切る」
と考えるのか、
「もう一度、自分の能力構成を作り直す」
と考えるのか。
私は後者の方が面白いと思っています。
50代は、人材価値をもう一度作り直せる時期
私自身、50代になって強く感じたことがあります。
この年代は、老後へ向かって能力を縮小していくだけの時期ではありません。
むしろ、それまでに蓄積した専門知識や社会経験へ、新しい能力を追加する時期
と考えることもできます。
若い人と同じ土俵で、同じことを、同じ方法で競争する必要はありません。
すでに持っている経験へ、新しい技術を追加すればよい。
これが「人材価値更新」です。
私は以前、「進歩寿命は60歳前後まで」と書いていました。
これは統計的・医学的な寿命概念ではなく、私自身が、意識的に新しい専門能力を獲得する時期として設定している目安です。
もちろん60歳を過ぎても学習はできます。新しいスキルも修得できます。
ただ、体力、仕事、人間関係、経済力などを考えれば、50代は新しい能力を本格的に身につけるために使いやすい時期だと思っています。
やりたいことを我慢するために資産形成するのではない
老後を考えると、どうしても倹約や資産形成の話になりがちです。
もちろん、お金は重要です。
しかし、やりたいことをすべて我慢して資産だけを残す
のであれば、目的と手段が逆転してしまいます。
やりたいことをやりながら資産形成も進めたいのであれば、支出を減らすだけでなく、所得を増やす方法も考える必要があります。
そこで、自分の市場価値をもう一度高める。
既存の専門分野の仕事を、より速く、より高い品質でできるようにする。
あるいは、これまでとは異なる仕事もできるようにする。
そのための一つの方法が、新しい技能の獲得です。
なぜ今、中高年にプログラミングなのか
以前の私は、
プログラミングができれば、業務を自動化できるから価値がある
と考えていました。
これは今でも正しい。
しかしAIの普及によって、プログラミングを学ぶ意味はそれだけではなくなりました。
むしろ、AI時代になったことで、新しい意味が加わっています。
AI時代の意義①|AIへの指示が具体的になる
プログラミングを少しでも学ぶと、
- 入力は何か
- 出力は何か
- 途中でどんな処理が必要か
- どんな条件分岐があるか
- 例外は何か
- データをどの形で持つか
という考え方が身につきます。
これは、そのままAIへ仕事を依頼するときにも役立ちます。
たとえば、
「この仕事を自動化して」
だけでは曖昧です。
しかしプログラミング的に考えられる人なら、
「このExcelファイルのA列から日付を読み、B列の金額を月ごとに集計し、異常値を除外して、別シートへ表とグラフを作る」
というところまで仕事を具体化できます。
現在のAIコーディングツールでも、複雑な仕事を分割し、要件や期待する結果を具体的に与えることが推奨されています。
つまり、プログラミング知識があると、単に専門用語を知っているからAIへ格好よく命令できるのではありません。
自分自身が「コンピューターに何をさせたいのか」を構造化して考えられる。
ここが重要なのだと思います。
AI時代の意義②|大きな仕事を分割する単位が見える
AIに大きな仕事を丸ごと渡すことはできます。
しかし、大きな仕事ほど、
「どこまでを一回の仕事として任せるか」
が重要になります。
プログラムを書いた経験があれば、
- データを読み込む部分
- データを加工する部分
- 判断する部分
- 保存する部分
- 表示する部分
など、機能をある程度の単位へ切り分けて考えられます。
これはプログラミングそのものというより、問題分解能力です。
仕事が巨大になったとき、
「まずここまで作らせよう」
「次にこの処理を追加しよう」
「ここは別のモジュールにしよう」
と考えられる。
AIへ仕事を任せる場合にも、この能力はかなり有用です。
AI時代の意義③|AIが書いたコードを評価できる
ここは非常に重要です。
AIがコードを書けることと、
AIが書いたコードが正しいこと
は同じではありません。
現在のAIコーディングツールでも、生成された変更を人間がレビューし、テストして確認することは依然として重要とされています。OpenAIも、AIが生成したコードを統合・実行する前に人間が検証する必要性を明記しています。
プログラミングをまったく知らなければ、
「AIが完成しましたと言ったから完成したのだろう」
となりかねません。
しかしコードが読めれば、
- この条件分岐はおかしくないか
- データが空の場合はどうなるのか
- 同じ処理を無駄に繰り返していないか
- 元データを書き換えてしまわないか
- エラー処理は必要ではないか
という疑問を持てます。
AI時代には、コードを書く能力だけでなく、コードを読んで疑う能力が重要になると私は考えています。
AI時代の意義④|プログラミング学習そのものをAIで加速できる
以前、プログラミング学習で厄介だったのは、
「なぜ動かないのか分からない」
状態でした。
初心者が何時間もコードを眺め、
「どこが間違っているんだ?」
と悩む。
そして、たった一文字の間違いだったりする。
現在はAIへ、
「このプログラムが動かない。何が問題?」
と尋ねることができます。
さらに、
「この一行は何をしている?」
「もっと簡単に書ける?」
「初心者向けに説明して」
「このコードを関数に分けて」
「テスト用データを作って」
と、次々に質問できます。
AIはコードを書く道具であると同時に、プログラミングを学ぶ際の個人教師としても使えるわけです。
私が最初にプログラミングを学んだ時代と比べれば、学習環境は大きく変わりました。
AI時代の意義⑤|重要なのは「構文暗記」から「仕様と検証」へ移る
私は、これがAI時代にプログラミングを学ぶ最大の意味の一つだと思います。
以前は、
「この命令はどう書くんだっけ」
を覚えていることにも価値がありました。
現在は、その程度ならAIへ聞けばすぐにコード候補が出てきます。
だから、構文を大量に暗記する重要性は相対的に下がりました。
その代わりに重要になるのが、
何を作るのか。
どういう構造にするのか。
どこで間違う可能性があるのか。
何をもって完成と判断するのか。
です。
つまり、
実装そのものより、仕様化・分解・検証の比重が高くなる。
プログラミングを学ぶことで、その考え方を身につけられます。
これは、プログラマーになるつもりのない中高年にも価値があると思います。
AI時代の意義⑥|自分の専門知識を「動く道具」に変えられる
もう一つ大きいのが、これです。
中高年には、若い人にはない蓄積があります。
仕事を何十年もしていれば、
「この作業は面倒だ」
「この数字を毎回確認している」
「ここで新人はよく間違える」
「この情報が自動で出れば便利なのに」
ということを大量に知っています。
以前なら、それをシステムにするには、専門の開発者へ依頼する必要がありました。
現在は、自分が基本的なプログラミングを理解していれば、AIと相談しながら小さなツールを自分で作れる可能性が大きくなっています。
ここでは、若いプログラマーと純粋なコーディング能力で競争する必要はありません。
自分の専門知識 × プログラミング × AI
という組み合わせでよい。
これは中高年にかなり相性のよい能力更新だと私は考えています。
最初のプログラミングならExcel VBAも依然として面白い
では、何から始めるか。
普段の仕事でデスクトップ版Excelを使っている人なら、私は今でもExcel VBAを一つの候補としておすすめします。
Excelのデスクトップ版にはVisual Basic Editorが用意されており、開発タブを有効にすればVBAを書き始められます。
つまり、すでにExcelを日常的に使っている人なら、新しい開発環境を一から構築しなくても、
いつもの仕事の延長線上でプログラムを書き始められる
という利点があります。
「マクロ」から一歩先へ進む
Excelでは操作を記録してマクロを作ることもできます。
実際、この機能が生成したVBAコードを読むことは、VBA学習の入口としてMicrosoft自身も紹介しています。
そこから一歩進んで、自分でコードを読み書きし、
- 変数
- 条件分岐
- ループ
- 関数
- オブジェクト
- データ処理
を理解する。
そうすれば、単なるExcel自動化を超えて、プログラミングの基本的な考え方が見えてきます。
その後Pythonなどへ進む際にも、学んだ考え方のかなりの部分を持っていけます。
詳しくは当サイト内、
『Excelの凄さを体験せよ|乱数とVBAで広がるマルコフ連鎖とモンテカルロの世界』
および、
『最初のプログラミング環境に悩んだらExcel VBAを選ぼう!』
で書いています。
もう一つのおすすめは心理学
もう一つ、中高年におすすめしたいのが心理学です。
特に社会人として長く働いた人にとって、心理学はこれまで経験してきた人間関係を別の言葉で理解し直す道具になります。
なぜ同じ出来事でも、人によって受け止め方が違うのか。
なぜ合理的には見えない行動をするのか。
なぜ職場ではハラスメントや対立が繰り返されるのか。
なぜ自分自身も、誤りと分かっていながら同じ思考を繰り返すのか。
こうした問題を、性格や根性だけで説明するのではなく、認知、感情、行動、環境との関係として考えられるようになります。
特に臨床心理学は社会経験と組み合わせやすい
私は産業医として人と面談する中で、心理学、とりわけ臨床心理学の知識を実務で使ってきました。
たとえば認知行動療法の考え方を学ぶと、
「その人に何が起きたのか」
だけではなく、
「その出来事を本人はどう認識し、その認識が感情や行動へどう影響しているのか」
を見る視点が得られます。
社会経験の長い中高年だからこそ、
「ああ、あの時のあの人の行動は、こういう構造だったのか」
と腑に落ちることも多いでしょう。
心理学分野には、
- 公認心理師
- 臨床心理士
- 認定心理士
など、学習を体系化するための資格や認定制度もあります。
資格取得そのものを目的にする必要はありませんが、「何をどの順序で学ぶか」という目印として利用することはできます。
この点については、当サイト内の
でも書いています。
プログラミングと心理学は、まったく違うようで似ている
プログラミングと心理学。
一見すると、まったく関係のない二分野に見えます。
しかし、私は両方とも、
複雑な現象を、構造に分けて理解する学問
という点では似ていると思っています。
プログラミングでは、
「この入力に対して、どんな処理を行い、何を出力するのか」
を考えます。
心理学では、
「この環境、この認知、この感情が、どんな行動につながるのか」
を考えます。
どちらも、
「何となくこうなった」
で済ませず、構造を考える。
この思考習慣そのものが、人材価値を更新するうえで役に立つのではないでしょうか。
まとめ|AI時代だからこそ、プログラミングを学ぶ価値がある
AIが急速に進歩したことで、
「今さらプログラミングを勉強しても、AIに代替されてしまうのでは?」
と思う人もいるでしょう。
私は逆だと思います。
AIがコードを書けるようになったからこそ、プログラミングを少し理解している人は、
- AIへ具体的に仕事を指示できる
- 大きな仕事を適切な単位へ分割できる
- AIが書いたコードを読んで評価できる
- エラーや不具合を見つけやすくなる
- AIを教師として自分のコーディング能力を伸ばせる
- 自分の専門知識を小さなシステムや道具へ変えられる
ようになります。
つまり、AI時代のプログラミング能力とは、
自分ですべてのコードを書く能力だけではなく、AIと一緒に「動く仕組み」を設計し、完成させる能力
になりつつあります。
そして中高年には、すでに長年かけて蓄積した専門知識や社会経験に基づく問題意識があります。
そこへプログラミングを加える。
さらに、人間そのものを理解する心理学を加える。
若い人と同じ能力を一から競う必要はありません。これまで持っているものに、新しい能力を掛け合わせる。
それが『理屈コネ太郎』の考える、中高年の「人材価値更新」です。
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