中古艇を探していると、ときどき驚くほど安い艇があります。
新艇時にはかなり高価だった船が、長年使われず、数分の一の価格で売られていることもあります。
そんな艇を見つければ、
「これは掘り出し物かもしれない」
と思うのも自然です。
しかし、その価格を見る前にもう一つ考えてみると、中古艇の安さが分かりやすくなります。
普通に使える状態にするまで、あと何が残っているのか。
長期間十分な整備を受けていない艇では、
普通に使える状態まで仕上げる費用が、まだ艇に投入されていない
ことがあります。
つまり格安の中古艇は、
完成品にするための費用の一部が、買い手側に残された状態で売られている
と考えることができます。
艇体価格だけでは、本当の安さは分からない
関係を単純化すると、
長期間十分に整備されていない中古艇 + 必要な修理 = 普通に使える中古艇
となります。
たとえば、
- 長期間使われていなかった艇 300万円
- 十分に整備された同程度の艇 600万円
という二艇があったとします。
300万円の艇を同程度まで仕上げるために350万円掛かれば、合計650万円です。
入口では300万円安かった艇が、使える状態まで持っていくと50万円高くなります。
中古艇を見るときには、
購入時の値札と、普通に使える状態まで持っていくための総額
を分けて考える必要があります。
古い艇は、修理費を読みづらい
船には多くの機械や設備があります。
エンジン、燃料系統、電装、配管、操舵装置、ポンプ、電子機器。
船体にも、デッキ、隔壁、トランサムなどの構造部分があります。
さらに船は、塩分、湿気、水、紫外線の影響を受けながら使われます。
長期間十分な整備を受けていない艇では、傷みが表から見えない部分まで進んでいることがあります。
エンジンは始動する。
ところが海上で負荷を掛けると不具合が出る。
配線を触ると内部に腐食が見つかる。
ホースを交換すると、その先の部品にも傷みが見つかる。
床を開けると、その下の構造部分にも修理が必要だった。
古い艇では、一つ直したことで次の修理箇所が見つかることがあります。
そのため、
普通に使える状態まで、最終的にいくら掛かるのか
を購入時点で正確に読むことが難しくなります。
格安艇では、修理費だけでなく、
修理総額がまだ分からないこと
も買い手側に残っています。
「直せる」と「直して割に合う」は別の話
船はかなりの範囲まで修理できます。
しかし、修理できることと、その艇にその費用を掛ける意味があることは別です。
100万円掛けて直した結果、その艇の商品価値が200万円上がるなら、手を入れる意味があります。
300万円掛けても商品価値が100万円しか上がらないなら、同じようには考えられません。
船体構造まで広い範囲で手を入れる必要があれば、修理費はさらに大きくなります。
中古艇を扱うプロも、
いくら掛ければ商品になるのか
と、
商品になったあと、いくらで売れるのか
を並べて考えます。
販売店は「直したあと、いくらで売れるか」を見る
販売店が中古艇に手を入れれば、艇の商品価値は上がります。
しかし、修理に100万円掛けたからといって、市場価格も100万円上がるとは限りません。
中古艇には、艇種、年式、エンジン、装備、人気などから、おおよその相場があります。
完成後にその値段で買いたい人がどれだけいるかも、販売価格に影響します。
そこで販売側は、
いくらで仕入れ、いくら掛けて商品にし、最後にいくらで売れそうか
を考えます。
100万円で仕入れ、100万円掛けて、200万円で売っても商売にはならない
ある艇を100万円で仕入れたとします。
修理、部品、清掃などに100万円掛かった。
ここまでで200万円です。
その艇を200万円で売っても、
100万円 + 100万円 = 200万円
です。
投入した金額が戻っただけです。
実際には、艇を置く場所、販売活動、人件費、売れるまでの時間、売れ残る可能性、引き渡し後の対応などもあります。
商売として手掛けるなら、それらを負担したあとにも利益が残る価格で売れる見込みが必要です。
説明のために、
- 仕入価格 X万円
- 商品化までに掛かる費用 Y万円
として、
(X + Y)× 1.3
程度で売れる見込みが欲しいと考えてみます。
これは中古艇業界の決まった数字ではありません。
100万円で仕入れ、100万円掛けた艇なら、投入額は200万円です。
260万円で売れれば60万円の差があります。
販売側は、その差の中から保管、販売、人件費、売れ残りなどを引き受けます。
プロにとって大切なのは、
修理後に値段が上がるか
だけではなく、
仕入れから販売まで全部を終えたあとに、十分な余地が残るか
です。
プロは修理費以外の条件も見る
同じ価格で売れそうな艇でも、商品にしやすさは違います。
たとえば、
- 部品が手に入りやすい
- 修理内容を読みやすい
- 運搬しやすい
- 保管場所を取りすぎない
- 欲しがる人が多い
- 比較的短期間で売れそうである
という艇は扱いやすくなります。
修理に長い時間が掛かり、大きな保管場所を使い、完成後も買い手を探すのに時間が掛かる艇なら、より大きな価格差が必要になります。
つまりプロが見ているのは、
安く買えるか
ではなく、
商品にして、きちんと利益を残して売れるか
です。
一般の購入者が見る前に、プロが艇を見る機会がある
販売店、マリーナ、修理業者などが関わる流通では、一般の購入者が販売情報を見る前に、舟艇を仕事にしている人がその艇を見る機会があります。
そこで、
この艇なら、仕入れて手を入れれば商品になる
と判断されれば、その艇には商売としての価値があります。
安く仕入れる。
必要なところを修理する。
機関や装備を確認する。
清掃して商品として整える。
そうして中古艇市場へ出します。
一般の購入者がその艇を見る頃には、
仕入価格+商品化に掛かった費用+販売側の利益
が価格に反映されています。
買い手から見ると、
「良さそうな艇だけれど、ちょっと高いなあ」
と感じることもあるでしょう。
しかし、その値段になるまでに、すでに誰かが費用と手間を投入しています。
分かりやすい「掘り出し物」は、プロにも分かりやすい
たとえば、
100万円で仕入れられる。
100万円掛ければ十分な商品になる。
完成すれば400万円で売れそうである。
そんな艇なら、プロにとっても魅力があります。
しかもプロには、
- 艇を見る経験
- 修理費を読む知識
- 部品の入手先
- 修理設備
- 中古艇相場についての知識
があります。
一般の購入者よりも早く、
この艇には手を掛ける価値がある
と判断できる場合があります。
分かりやすく大きな価格差を作れそうな艇ほど、一般の購入者が格安艇として見る前に商品化されやすくなります。
そして市場へ出てくる頃には、
安い素材だった艇が、手の入った中古商品へ姿を変え、その分だけ値段も上がっています。
では、なぜこの艇は格安のまま売られているのか
ここで最初の疑問へ戻ります。
目の前に、長期間十分な整備を受けていない格安艇があります。
販売側が自ら修理して商品にするという方法もあります。
それでも安い状態で市場へ出ている。
そこには、
手を入れるために必要な費用と、完成後に上げられる販売価格との間に、十分な余地を作りにくい
という事情が含まれていることがあります。
200万円掛けて商品にしても、販売価格が100万円しか上がらない。
完成後の相場はそれなりに高くても、修理、保管、運搬、販売までに多くの費用や時間が掛かる。
そうした艇なら、販売側が自ら商品化する魅力は小さくなります。
そして、
普通に使える状態まで仕上げる仕事の一部が残ったまま、安い価格で市場へ出てきます。
格安艇の値札には、こうした事情が反映されています。
自分で直せば、計算は変わる
ここで、
「自分で直せば安く済む」
という考え方が出てきます。
結果は、その人が持っている条件によって変わります。
たとえば、プロなら10時間、10万円で行う仕事を、自分で100時間掛けて行ったとします。
その場合、
100時間を使って、10万円の外注費を減らした
ことになります。
自分で作業すると、自分の時間に対する請求書は届きません。
そのためDIYでは、艇へ投入した時間が見えにくくなります。
修理には、作業する技術だけでなく、故障原因を見つける経験、工具、作業場所、部品を入手する方法も必要です。
一方で、
- 自分で修理できる
- 作業場所を持っている
- 部品を安く入手できる
- その艇種をよく知っている
という人なら、販売業者とは違った条件でその艇を扱えます。
レストアそのものが楽しい人なら、時間の意味も変わる
古い艇を直すこと自体が趣味なら、修理時間の価値も変わります。
船を分解する。
配線を引き直す。
古い部品を交換する。
少しずつ艇が仕上がっていく。
その過程そのものを楽しめるなら、修理時間は趣味の時間でもあります。
こうした人にとって、長期間十分に整備されていなかった中古艇は、
安い完成品というより、自分で仕上げる素材
です。
販売業者には手掛ける余地が小さな艇でも、その人の技術や環境によっては魅力的な一艇になることがあります。
「整備済み」という言葉より、何を直したのかを見る
中古艇には、販売前にある程度手を入れた艇もあります。
販売価格には上限があるため、商品化に使える費用にも限りがあります。
そこで、
- 動く状態まで整える
- 外から見える部分をきれいにする
- 必要最小限の部品を交換する
- まだ使える古い部品は継続して使用する
といった整備が行われることがあります。
いわば、なんちゃって修理、なんちゃってレストアです。
見た目はかなりきれいになります。
中古艇では、
「整備済み」という言葉より、何をどこまで直したのか
を見る方が、その艇の状態を理解しやすくなります。
交換部品、整備記録、作業内容、試運転結果などを見ると、その艇へどの程度の費用と手間が投入されたのかが見えてきます。
購入前の点検は、分からない修理費を減らすために行う
長期間十分な整備を受けていない艇では、購入後に何が見つかるかによって総額が大きく変わります。
そこで購入前の確認が重要になります。
艇体を見る。
エンジンを見る。
燃料系統、電装、配管、操舵系を見る。
可能なら上架して、水線下や船体の状態を確認する。
海上試運転では、実際に負荷を掛けてエンジン、操舵、冷却、振動、各種機器の動作を見る。
高額な艇なら、経験のある第三者へ状態確認を依頼する方法もあります。
ここに掛ける費用は、
購入後に初めて分かる修理費を、購入前に少しでも見えるようにするための費用
です。
十分に整備された中古艇が高い理由
販売店が十分な点検と修理を行い、さらに保証まで付けた中古艇では、販売側が多くの費用を先に負担しています。
- 点検
- 修理
- 部品
- 人件費
- 商品化
- 販売後の保証対応
その費用は販売価格に反映されます。
だから十分に整備された中古艇は高くなります。
買い手から見れば高い値札ですが、その価格には、
購入後に自分で引き受けるはずだった修理費や、不具合が出たときの負担の一部
も含まれています。
安く買える艇と、安く使える艇は違う
中古艇がなぜ安いのかを一つずつ見ていくと、その値札の意味が見えてきます。
格安艇には、まだ行われていない修理があります。
その修理が最終的にいくらになるのかも読みづらい。
販売業者は、
仕入れ価格、商品にするまでの費用、完成後に売れそうな価格
を見て、手掛ける艇を選びます。
分かりやすく大きな価格差を作れる艇は、プロにとっても魅力があります。
そうして商品化された艇は、一般の購入者が見る頃には、その価値が値段へ反映されています。
一方、格安の状態で販売されている艇では、普通に使える状態まで仕上げる仕事の一部が買い手側に残っています。
だから中古艇では、
安く買える艇と、安く使える艇は違います。
そして価格を見るときに大切なのは、
その艇がいくらなのかだけでなく、その価格になるまでに何が済んでいて、何がまだ残っているのか
を見ることなのだと思います。
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