ブリッピングとヒールアンドトゥの違い ☆ 目的・練習方法をまとめて解説

はじめに

ブリッピングは、アクセルを一瞬あおってエンジン回転数を上げる操作です。ヒール&トー(ヒールアンドトゥ、heel-and-toe)は、ブレーキングを続けながら、そのブリッピングを行うためのペダル操作です。

つまり、ブリッピングが回転合わせのための基本操作であり、ヒール&トーはブレーキング中にもそれを行えるようにする方法です。両者は別々の目的を持つ技術ではなく、ヒール&トーの中にもブリッピングが含まれています。(Honda Global)

本記事は、MT車の基本的な発進・変速操作を身につけた方を対象に、シフトダウン時の回転合わせの意味と、操作・練習方法を解説します。クラッチペダルを備えた一般的なMT車で、ドライバー自身が回転合わせを行う場合を中心に説明します。

なお、toe は日本語で「トゥ」と表記されることもありますが、英語では /təʊ/(イギリス英語)または /toʊ/(アメリカ英語)と発音します。本記事の本文では、その発音に近いカタカナ表記として「トー」を用います。(ケンブリッジ辞典)


ブリッピングとは?

ブリッピング(blipping)は、アクセルを瞬間的にあおる操作そのものを指します。MT車のシフトダウンでは、クラッチを切っている間にこの操作を行い、クラッチを再びつなぐ際の回転差を小さくします。(Honda Global)

合わせる回転数は何と何か?

合わせようとしているのは、エンジンの回転数と、下のギアへの切り替えが完了したトランスミッション入力軸の回転数です。

下のギアが選択されると、入力軸の回転数は、駆動輪の回転数とギア比の関係によって決まります。ブリッピングでは、その回転数にエンジン回転数を近づけます。言い換えれば、クラッチのエンジン側とトランスミッション側の回転数を、接続前に近づける操作です。(合理的なもの)

例えば、4速から3速へシフトダウンする場合、同じ車速なら3速の方が高いエンジン回転数を必要とします。ただし、減速しながら変速している間にも車速は下がります。

したがって、目標にするのはシフトダウンを始めた瞬間の回転数ではありません。クラッチを再びつなぐ時点の車速と、選択したギアに対応する回転数です。(driver61.com)

回転が合っていないと何が起きるのか?

エンジン回転数が不足したままクラッチを急につなぐと、駆動輪側からエンジンを回し、その回転数を引き上げることになります。

このとき駆動輪には一時的な制動トルクが加わり、減速のショックや車体姿勢の変化を生じさせます。タイヤのグリップ限界に近い状態では、駆動輪の滑りにつながることもあります。(driver61.com)

逆に、必要以上に回転数を上げたまま接続すれば、回転差を埋める力は反対向きに働きます。エンジン側から駆動輪を駆動する方向のトルクが加わり、別のショックを生じさせます。

そこで、クラッチをつなぐ前にエンジン回転数を入力軸の回転数へ近づけておけば、接続時の余分なトルク変動を小さくできます。ブリッピングは、大きくあおることではなく、適切な回転数へ合わせることが重要なのです。

ここで区別したいのは、回転差を急に埋める際のショックと、接続後に働くエンジンブレーキは別だということです。回転を合わせてクラッチをつないでも、その後アクセルを閉じていればエンジンブレーキは働きます。ブリッピングは、エンジンブレーキそのものをなくす操作ではありません。

ブリッピングの操作方法

基本的な流れは次のとおりです。

  1. 左足でクラッチペダルを十分に踏み込み、クラッチを切ります。
  2. 下のギアへシフトする操作と重ねて、右足でアクセルを一瞬あおり、エンジン回転数を上げます。
  3. 下のギアへの切り替えを終え、回転が合ったところでクラッチを滑らかにつなぎます。(driver61.com)

シフトレバー操作とアクセル操作を、厳密に同じ瞬間に始める必要はありません。大切なのは、クラッチを切っている間に両方を進め、つなぐ時点で回転数が近づいていることです。

ダブルクラッチとの違い

本記事で扱う通常のシフトダウンでは、クラッチを切ったまま、ブリッピングでエンジン側の回転数を調整します。

これに対して、シフトダウン時のダブルクラッチでは、クラッチを切ってニュートラルにした後、そこでいったんクラッチをつないでからアクセルをあおります。 これにより、エンジンだけでなくトランスミッション入力側の回転数も上げます。その後、再びクラッチを切って下のギアへ入れ、最後にクラッチをつなぎます。〈参考:Eaton大型車用トランスミッション取扱説明書「Double-Clutching」節〉(Eaton)

クラッチを切ったままあおるのか、ニュートラルでいったんつないでからあおるのか。この違いによって、調整できる回転の対象が変わります。

機構の詳細は、別記事「MTの回転数合わせとは何か|ブリッピング・ヒール&トウ・ダブルクラッチを機構から解説」を参照してください。(合理的なもの)


ヒール&トーとは?

右足でブレーキを踏んでいる最中に、その足をアクセルへ完全に移してしまえば、ブレーキ操作が途切れます。

そこで、右足の一部でブレーキを踏み続けながら、同じ右足の別の部分でアクセルを一瞬あおります。このように、ブレーキングとブリッピングを両立させるのがヒール&トーです。(Honda Global)

必ず「つま先とかかと」を使うのか?

名称どおり、つま先側でブレーキを踏み、かかとでアクセルを操作する方法があります。

一方、ペダル配置や足の大きさによっては、右足の母趾球付近でブレーキを踏みながら、足の右外側でアクセルをあおる方法が適しています。必ずしも、文字どおりにつま先とかかとを使うわけではありません。(driver61.com)

足の形を決める基準は、アクセルに届くかどうかだけではありません。ブレーキを確実に操作したまま、アクセルも操作できることが重要です。

なぜブレーキング中の回転合わせが重要なのか?

コーナー進入前の強いブレーキングでは、タイヤはすでに減速のために大きな力を発生させています。

その状態で、回転不足のままクラッチを急につなぐと、駆動輪にはブレーキによる制動に加え、エンジン回転数を引き上げるための一時的な制動トルクが加わります。

ヒール&トーは、この余分な変動を抑え、ブレーキングから旋回へ移る過程で車体を乱しにくくするために使います。(driver61.com)

自動回転合わせにも同じ狙いがあります。例えばポルシェは、911 S/Tの自動ブリッピングについて、シフトダウン時に後輪が過度に制動されることを避け、操縦安定性を高めると説明しています。手動操作では、その回転合わせをドライバー自身が行います。(Porsche Newsroom)

ヒール&トーの操作方法

基本的な流れは次のとおりです。

  1. 右足でブレーキを踏み、減速を始めます。
  2. ブレーキ操作を続けながら、左足でクラッチを切ります。
  3. 下のギアへシフトする操作と重ねて、右足のかかと、または足の右外側でアクセルを一瞬あおります。
  4. 下のギアへの切り替えを終え、回転が合ったところでクラッチを滑らかにつなぎ、必要なブレーキングを続けます。(driver61.com)

重要なのは、アクセルをあおる動きによって、意図したブレーキ踏力を乱さないことです。

これは、ヒール&トーの最中は常に一定の踏力でなければならない、という意味ではありません。走行状況に応じて、ブレーキを意図的に緩めることもあります。

避けたいのは、アクセルをあおろうとした結果、ブレーキを不意に強く踏んだり、緩めたりしてしまうことです。


ブリッピングとヒール&トーの違い

両者の違いは、減速の強弱ではありません。ブリッピングはアクセルをあおる操作そのものであり、ヒール&トーはブレーキング中にもその操作を行う方法です。 したがって、「ブリッピングは穏やかな減速専用、ヒール&トーは急減速専用」という分け方は適切ではありません。ヒール&トーは強いブレーキング中に有用ですが、穏やかなブレーキングとシフトダウンを組み合わせる場合にも使えます。(Honda Global)


ヒール&トーは、いつも必要なのか?

ヒール&トーは有用な技術ですが、すべてのシフトダウンで行う必要があるわけではありません。

日常の穏やかなシフトダウンで、クラッチ接続時の回転差が小さければ、クラッチを丁寧につないでその差を吸収することで、ブリッピングを使わずにショックを抑えられる場面もあります。

また、自動回転合わせ機能が作動するMT車では、対応する変速条件の範囲でブリッピングを車両側に任せられます。Hondaも、回転合わせの自動化によって、ドライバーがステアリングやブレーキの操作に集中できると説明しています。(Honda Global)

一方、手動で行う場合は、ペダル配置や習熟度も判断材料になります。アクセルをあおるたびにブレーキ踏力が不意に変わるなら、無理に同時操作を続けず、まず確実に減速できる操作を優先してください。

回転合わせができても、そのためにブレーキングや進路が乱れるなら、目的にかなった操作にはなっていません。

もちろん、ヒール&トーを使わないからといって、大きな回転差を残したままクラッチを急につないでよいわけではありません。特に滑りやすい路面では、急激なエンジンブレーキもタイヤの滑りにつながります。基本の減速、ギア選択、クラッチ操作を崩さないことが前提です。(ホンダ)


ブリッピングとヒール&トーの練習方法

練習では、操作の速さよりも、回転合わせの精度とブレーキ操作の安定を優先します。

走行を伴う練習は、使用許可があり、人や一般車両の進入が管理されている練習場やクローズドコースで行ってください。単に空いている駐車場や公道を、練習場所として選ばないようにします。

ブリッピングの練習ステップ

1.停止状態でアクセル操作を確かめる

平坦で車両を安全に固定でき、排気がこもらない場所を選びます。ギアをニュートラルにし、パーキングブレーキを確実にかけます。

エンジンが暖まった状態で、車両の使用条件に合う低めの回転数を目標に、アクセルを短くあおってみます。ここでは、踏む量や時間によって回転数の上がり方がどう変わるかを確かめます。最初から高回転を狙う必要はありません。

アクセルを戻した後の回転数の下がり方も確認してください。走行中には、あおる量だけでなく、クラッチをつなぐまでの時間も調整することになるからです。

2.低速で一段下へのシフトダウンを練習する

管理された練習環境で、まずはブレーキとの同時操作を伴わない、一段下へのシフトダウンから始めます。

余裕のある車速でクラッチを切り、下のギアへシフトする操作と重ねてアクセルを短くあおり、クラッチを滑らかにつなぎます。

最初から半クラッチをほとんど使わず、素早くつなぐことを目標にしないでください。まずは、クラッチをつないだ瞬間に、車体が前後へ揺さぶられないことを目指します。回転差が小さくなるにつれて、その差を吸収するための半クラッチも少なくて済むようになります。

3.あおる量とタイミングを調整する

接続時のショックが残る場合は、アクセルをあおる量だけでなく、あおってからクラッチをつなぐまでの時間も見直します。

あおる量が適切でも、つなぐまでに時間がかかれば、その間にエンジン回転数が下がります。減速中なら車速も変わるため、量とタイミングを一組の操作として身につけていきます。

走行中はタコメーターを凝視せず、前方確認を優先してください。指導者に同乗してもらえる環境では、自分では気づきにくい操作のずれも確認しやすくなります。

ヒール&トーの練習ステップ

1.ペダル配置と足の置き方を確認する

車両を安全に固定し、まずはエンジンを停止した状態で足の置き方を確かめます。

ブレーキを確実に踏める位置を基準に、かかとでアクセルに届くか、足の右外側を使う方が自然かを確認します。アクセルに届かせるために、ブレーキを踏む部分が極端に小さくなったり、足が滑りやすくなったりする姿勢は避けてください。

2.停止状態で動作を組み合わせる

ニュートラルとパーキングブレーキを確認し、ブリッピングの停止練習と同じ安全条件で行います。

まずは一定の力でブレーキを踏み、その力を乱さずに、同じ右足でアクセルを短くあおる動きを確かめます。慣れてきたら、クラッチを踏む動作も組み合わせます。

この段階の目標は、足の動きと操作の順序を身につけることです。停止状態でできても、走行中に同じようにできるとは限らないので、次の段階へ慎重に進みます。

3.低速の直線で組み合わせる

管理された練習環境の直線で、余裕のある速度から、ブレーキングと一段下へのシフトダウンを組み合わせます。

最初から強いブレーキングを行う必要はありません。まずは、アクセルをあおる前後で減速の強さが不意に変わらず、クラッチ接続時にもショックが出ない操作を目指します。

ブレーキ操作が乱れる場合は、速度や負荷を上げず、足の置き方と基本動作を見直してください。

4.クローズドコースで応用する

基本操作が安定してから、指導者やコースのルールに従い、段階的にコーナー進入時のシフトダウンへ応用します。

ここでも、必要なブレーキングと進路の維持が先です。うまくいかない操作を、速度を上げることで解決しようとしないでください。公道の峠などで、実戦的な速度域を試すことは練習方法に含めません。

練習時に特に注意したいこと

回転合わせは、不適切なギア選択を補う技術ではありません。

車速に対して低すぎるギアを選べば、クラッチ接続によってエンジンが許容回転数を超えるおそれがあります。「30km/hなら必ず3速から2速」というように車速とギアを一律に決めず、自分のクルマで適切な組み合わせを確認してください。HondaのMT車の取扱説明書でも、シフトダウン時にレッドゾーンへ入らない車速で操作するよう注意されています。(ホンダ)

自動回転合わせ機能を備える車両では、設定と作動条件を取扱説明書で確認します。自分のアクセル操作による回転上昇と、車両側の制御による回転上昇を区別しないままでは、手動操作の良し悪しを判断しにくくなります。機能の作動には条件があり、アクセル操作時の扱いも車両によって確認が必要です。(ホンダ)

練習場所を選び、基本へ戻るタイミングを判断することも、運転技術の一部です。


まとめ

ブリッピングは、シフトダウン時の回転合わせに使うアクセル操作です。ヒール&トーは、ブレーキングを続けながら、その操作を行う方法です。(Honda Global)

目指すのは、派手な足さばきや大きなエンジン音ではありません。

必要なブレーキングを乱さず、クラッチをつないだ瞬間にも車体を揺さぶらないこと。

この基準を軸にすると、両者の違いだけでなく、使う意味と練習の目標も明確になります。


他記事への移動は下記をクリック

作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です