MT車のドライビングテクニックを追求すると、ブリッピングなどで「回転を合わせる」という表現によく出会います。運転技術を解説する記事などでは、ブリッピング、ヒール&トウ、ダブルクラッチといった操作は「回転数を合わせる技術」であると説明されることが多いです。
しかし、その「回転を合わせる」とは何と何の回転数なのかについては、明確に説明されないことが少なくありません。エンジン回転数を合わせる、とだけ書かれている解説も多く見られます。
典型的なFR・MT車では、走行中の変速でフリクションクラッチ(後述するドッグクラッチと区別するためにフリクションクラッチと表記します)が開放されている間、入力軸回転数はタイヤ回転数と、選択されているギアのギア比によって決まります。
シフトダウンでは変速前と変速後でギア比が変わるため、入力軸回転数も変化します。このときクランクシャフト回転数と変速後入力軸回転数の差が大きいと、クラッチ再接続時にショックや車両姿勢の乱れが発生します。
ドライビングテクニック向上を目指す人ならば、これは回避したい現象です。そこで、ブリッピング、ヒール&トウ、ダブルクラッチという技術が浮かび上がってきます。
ブリッピング、ヒール&トウ、ダブルクラッチは、このクランクシャフト回転数と変速後入力軸回転数の差を小さくするための操作です。
本記事では、まずFR・MT車の動力伝達構造を整理し、そのうえでクラッチ開放時の回転関係を説明します。さらに、変速前入力軸回転数、変速後入力軸回転数、クランクシャフト回転数を時間順に追いながら、ブリッピング、ヒール&トウ、ダブルクラッチの役割を機構の観点から整理します。
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Contents
FR・MT車の動力伝達構造
典型的なFR(フロントエンジン・後輪駆動)MT車では、エンジンから駆動輪までの動力は次の順序で伝達されます。
クランクシャフト
↓
フライホイール
↓
フリクションクラッチ
↓
トランスミッション入力軸(インプットシャフト)
↓
カウンターシャフト
↓
選択ギア
↓
ドッグクラッチ(シフトスリーブ)
↓
トランスミッション出力軸(アウトプットシャフト)
↓
プロペラシャフト
↓
デファレンシャル
↓
ドライブシャフト
↓
駆動輪(タイヤ)
この図は、エンジンから駆動輪までの動力伝達の順序を示しています。
フリクションクラッチ開放時の回転関係
走行中の変速では、フリクションクラッチが開放され、入力軸はエンジンから切り離されます。
この状態では回転関係は次の順序で決まります。
タイヤ回転数
↓
出力軸回転数
↓
選択ギア
↓
入力軸回転数
つまり入力軸回転数は、タイヤ回転数と、接続されているギアのギア比によって決まります。
シフトダウンで起きている回転数の変化
シフトダウンでは、変速前と変速後でギア比が変わります。そのため入力軸回転数の関係は次のようになります。
変速前入力軸回転数
=
出力軸回転数 × 変速前ギアのギア比
変速後入力軸回転数
=
出力軸回転数 × 変速後ギアのギア比
シフトダウンでは通常、変速後ギアのギア比の方が大きくなります。そのため
変速後入力軸回転数 > 変速前入力軸回転数
になります。
フリクションクラッチを再接続するとき、クランクシャフト回転数と変速後入力軸回転数の差が大きい場合、回転差が急激に吸収されるためショックや車両姿勢の乱れが発生します。
ブリッピングとは何をしている操作か
ブリッピングとは、フリクションクラッチ開放時にアクセルを一瞬踏み、クランクシャフト回転数を上げる操作です。多くの場合、シフトダウン時に行われます。
シフトダウンでは、フリクションクラッチが開放されている間、入力軸回転数はタイヤ回転数と接続されているギアのギア比によって決まります。
一方、フリクションクラッチを再接続すると
クランクシャフト回転数
=
入力軸回転数
になります。
そのためフリクションクラッチ開放中にブリッピングを行いクランクシャフト回転数を上げておくことで、クランクシャフト回転数を変速後入力軸回転数に近づけることができます。
つまりブリッピングとは、フリクションクラッチ開放時にアクセルを一瞬踏み、クランクシャフト回転数を変速後入力軸回転数へ近づける操作です。
ヒール&トウとは何をしている操作か
ヒール&トウは、減速しながらシフトダウンする際にブリッピングを行うためのペダル操作です。
右足でブレーキを踏みながら、足の一部でアクセルを一瞬踏んでブリッピングを行い、クランクシャフト回転数を上げます。
ヒール&トウによってクランクシャフト回転数を変速後入力軸回転数に近づけることで、フリクションクラッチ再接続時の回転差を小さくすることができます。
ダブルクラッチとは何をしている操作か
ダブルクラッチでは、シフトダウンの途中でニュートラル状態を利用して入力軸回転数を調整します。
ニュートラル状態ではドッグクラッチが開放されています。この状態でフリクションクラッチを接続すると
クランクシャフト
入力軸
カウンターシャフト
が連結して同じ回転数で回転します。
この状態でブリッピングを行うと、クランクシャフト回転数の上昇に合わせて入力軸回転数も上昇します。
ダブルクラッチは、この方法で入力軸回転数を変速後入力軸回転数に近づけてから、次のギアへドッグクラッチを接続する操作です。
まとめ|MTの回転数合わせの本質
シフトダウンでは、変速前と変速後でギア比が変わるため入力軸回転数も変化します。
そのためフリクションクラッチ再接続時には
クランクシャフト回転数
と
変速後入力軸回転数
の差が発生します。
ブリッピング、ヒール&トウ、ダブルクラッチは、この回転差を小さくするための操作です。
MT車の回転数合わせとは、単にエンジン回転数を合わせる操作ではありません。
回転数合わせとは、フリクションクラッチ再接続時の回転差を小さくするために、クランクシャフト回転数を変速後入力軸回転数へ近づける操作です。
