レイトクリップが速くなる理由|通常クリップと同じ距離を短時間で走る仕組み

レイトクリップが速くなる理由は、コーナー前半でクルマの向きを出口方向へ整え、通常クリップコーナリングより早く舵角を戻して、大きなアクセル開度へ移れることにあります。

進入側では旋回半径が小さくなり、最低速度も下がりやすくなります。出口側では速度を早く高め、その差を後続ストレートへ持ち越せます。出口側の利益が進入側の損失を上回れば、進入前から出口後までの区間タイムは短くなります。

本記事では、通常クリップとレイトクリップの走行ライン、アクセル開度、ブレーキ踏力、舵角、速度の変化を4枚の図で比較します。

進入前ストレートのGate Aから出口後ストレートのGate Bまでを同じ距離にそろえた概念モデルでは、通常クリップは5.30秒、レイトクリップは4.90秒です。レイトクリップは、同じ距離を0.40秒短い時間で通過します。

図1 通常のクリッピングポイント
図2 クリッピングポイントをコーナーの奥におく

図1と図2は、急減速を終えて旋回を始めた地点から、旋回を終えて出口ストレートへ入る瞬間までの走行ラインを示しています。

図3 通常クリップコーナリングにおける操作と速度
レイトクリップコーナリングにおける操作と速度

図3と図4は、その前後のストレートまで比較範囲を広げ、アクセル開度、ブレーキ踏力、舵角、速度の変化を時間軸に沿って示しています。

走行ラインの違いが操作の違いを生み、その操作の違いが速度変化と通過時間の差になるまでを、順番に見ていきます。

本記事で想定するコーナー

本記事では、長い進入ストレートと長い出口ストレートを、道路中心線の曲率が一定の180度コーナーでつないだレイアウトを想定します。

勾配、カント、路面の凹凸、複合コーナーなどの要素は省き、通常クリップとレイトクリップの基本的な違いに絞ります。

図1と図2では、コーナー内側の境界上に置いた目標点をクリッピングポイント、略してCPとします。その直近を通る走行ライン上の地点を「イン」とします。

通常クリップもレイトクリップも、進入側のアウトからインへ向かい、出口側のアウトへ広がるアウト・イン・アウト型の走行ラインです。

両者の違いは、CPを置く位置と、クルマの向きを整える時期にあります。

比較区間をGate AからGate Bまでに固定する

通常クリップとレイトクリップの速さを比べるには、計測を始める地点と終える地点をそろえる必要があります。

そこで、図3と図4では、コース上に2本の仮想的な計測線を置いています。

進入前ストレート上の計測開始線がGate Aです。

Gate Aは、ストレートエンドで急減速を始める前に置いています。通常クリップとレイトクリップは、同じ車両が同じ速度でGate Aを通過する設定です。Gate Aを通過した瞬間を、どちらも0.00秒とします。

出口後ストレート上の計測終了線がGate Bです。

Gate Bは、通常クリップとレイトクリップの双方がコーナーを脱出し、フルアクセルかつ舵角ほぼ0となった後の同じ地点に置いています。

比較する範囲は、次のようになります。

進入前ストレート上の同一地点Gate Aから、出口後ストレート上の同一地点Gate Bまで

この範囲には、進入前ストレート、急減速、コーナー前半、CP、コーナー後半、出口後ストレートが含まれます。

Gate Bを出口後ストレートに置くことで、コーナー内で始まった加速の効果を、出口後まで含めて比較できます。

通常クリップはコーナー中央付近にCPを置く

図1 通常クリップの走行ライン

図1 通常のクリッピングポイント

図1は、通常クリップの走行ラインです。

急減速を終えたクルマは、進入側のアウトから旋回を始めます。ブレーキ踏力を抜きながら舵角を増やし、コーナー中央付近に置いたCPへ向かいます。

CP付近では、走行ラインがコーナー内側へ最も近づきます。この付近で舵角が最大となり、速度もコーナリング中の最低付近になります。

CPを通過した後は、出口側のアウトへ向けて舵角を徐々に戻します。舵角を戻した分だけアクセル開度を増やし、出口ストレートへ向けて速度を上げます。

通常クリップでは、コーナー前半と後半を比較的均等な弧でつなげられます。進入側の旋回半径を大きく取りやすく、コーナー中央までの速度を保ちやすい走行ラインです。

一方、CP通過後にも長い旋回区間が残ります。舵角を戻して大きなアクセル開度へ移るまでには、一定の時間が必要です。

ブレーキ踏力、舵角、アクセル開度を協調させた結果としてアウト・イン・アウトになる仕組みは、別記事「アウト・イン・アウトは結果である|トレイルブレーキと舵角で考えるコーナリングの基本」で詳しく扱っています。

レイトクリップはCPより前に出口へ向きを整える

図2 レイトクリップの走行ライン

図2 レイトクリップコーナリングにおける操作と速度

図2は、レイトクリップの走行ラインです。レイトアペックスとも呼ばれます。

レイトクリップでは、通常クリップより長くアウト側を走り、CPを走行方向の出口側へ移します。

クルマはCPへ到達する前に、大きく向きを変えます。そのため、コーナー前半の旋回半径は通常クリップより小さくなります。必要な旋回を成立させるため、進入速度や最低速度も低くなりやすくなります。

ここで下げた速度が、レイトクリップの進入側で支払う時間です。

その代わり、クルマはCPへ到達する前に出口方向へ向き始めます。最大舵角を作った後、舵角を戻しながらCPへ近づくため、アクセル開度も早く増やせます。

CPを通過する時点では、通常クリップより走行ラインが出口ストレートの方向へ整っています。CP以降のラインも直線に近づき、出口側のアウトへ向けて早く加速できます。

通常クリップでは、最大舵角、最低速度、CP通過がほぼ同じ時期に現れます。

レイトクリップでは、最大舵角と最低速度がCPより前に現れます。その後、舵角を戻し、速度を上げながら出口側へ移したCPを通過します。

この順序の違いが、出口加速の開始時期を変えます。

図3と図4は時間の経過を横方向に示す

図3と図4は、Gate AからGate Bまでの操作と速度の変化を、左から右への時間経過として表した概念図です。

赤色の帯はアクセル開度、青色の帯はブレーキ踏力、オレンジ色の帯は舵角、緑色の帯は速度を表します。

各帯は、縦方向に太いほど、その時点の値が大きいことを示しています。

アクセル開度、ブレーキ踏力、舵角、速度は、それぞれ異なる単位を持つ量です。帯の太さは、各項目の中での相対的な大きさを示しています。

図3と図4の横軸は、どちらも次の縮尺です。

1秒=240px

pxは、図上の長さを表すピクセルの単位です。

したがって、1pxは約0.00417秒、24pxは0.10秒、96pxは0.40秒に相当します。

縦方向についても両図は共通縮尺です。4本の帯の最大幅は、いずれも88pxにそろえています。

同じ色の帯については、図3と図4の太さをそのまま比較できます。

速度帯の面積が移動距離に対応する

図3と図4で移動距離を表しているのが、緑色の速度帯です。

クルマが進む距離は、速度と時間の積で求められます。

距離=速度×時間

一定の速度で走っている場合、速度帯は長方形になります。

縦方向の太さが速度、横方向の長さが時間なので、その長方形の面積が「速度×時間」、つまり移動距離に対応します。

実際のコーナリングでは速度が変化します。

そこで、緑色の速度帯を縦に細かく切って考えます。それぞれの細い部分について、

その時点の速度×ごく短い時間

を求めます。

その小さな面積をGate AからGate Bまで足し合わせたものが、緑色の速度帯全体の面積です。

したがって、図上では次の関係になります。

緑色の速度帯の面積
=速度×時間の積み重ね
=Gate AからGate Bまでの移動距離に対応する量

図3と図4では、横軸の時間縮尺と、縦方向の速度縮尺を共通にしています。

そのため、緑色の速度帯の面積が同じなら、Gate AからGate Bまでの移動距離も同じです。

緑色の着色部分をピクセル単位で数えると、図3と図4はどちらも次の面積になります。

79,502px²

79,502px²は、実距離へ換算する前の図上の相対量です。両図は共通縮尺なので、面積が等しいことが、移動距離が等しいことを示します。

つまり図3と図4は、通常クリップとレイトクリップが、同じGate Aから同じGate Bまで、同じ距離を走る比較図として作られています。

通常クリップはCP通過後に速度上昇へ移る

図3 通常クリップの操作と速度変化

図3 通常クリップコーナリングにおける操作と速度

図3は、通常クリップにおけるアクセル開度、ブレーキ踏力、舵角、速度の変化です。

Gate Aを0.00秒として、進入前ストレートをアクセル全開で走ります。

ストレートエンドに到達するとアクセルを閉じ、ステアリングをほぼ中立に保ったまま、強く短いブレーキングを行います。ここが図中の急減速区間です。

急減速を終えると、ブレーキ踏力を徐々に抜きながら舵角を増やします。

図3の操作順序は、次のようになっています。

ブレーキ踏力0:2.35秒
最大舵角・CP通過:2.85秒
アクセル開始:2.95秒
速度上昇開始:3.05秒

2.35秒でブレーキ踏力が0になった後も、クルマはCPへ向けて舵角を増やします。

2.85秒で舵角が最大となり、CP付近のインを通過します。この付近が最低速度です。

2.95秒でアクセルを開け始め、3.05秒から速度が上昇します。

CP通過後も旋回が続くため、舵角は時間をかけて戻ります。アクセル開度も、舵角の戻りに合わせて徐々に増えます。

その後、出口ストレートへ入り、フルアクセルかつ舵角ほぼ0となった後、5.30秒でGate Bへ到達します。

レイトクリップはCPより前から速度を上げる

図4 レイトクリップの操作と速度変化

図4 レイトクリップコーナリングにおける操作と速度

図4は、レイトクリップにおける操作と速度の変化です。

Gate Aから急減速区間までの基本的な流れは図3と共通です。進入前ストレートをアクセル全開で走り、ストレートエンドで強く短いブレーキングを行います。

レイトクリップでは、コーナー前半で早くクルマの向きを変えます。

図4の操作順序は、次のようになっています。

ブレーキ踏力0・最大舵角:2.05秒
3px後からアクセル開始・舵角戻し
速度上昇開始:2.15秒
加速しながらCPを通過

横軸は1秒=240pxなので、3pxは約0.013秒です。

最大舵角となったほぼ直後から舵角を戻し、アクセルを開け始めています。

2.15秒には速度も上昇へ移ります。

この時点では、まだ出口側へ移したCPに到達していません。クルマは舵角を戻し、アクセル開度を増やし、速度を上げながらCPへ向かいます。

CPを通過する頃には、車体の向きが出口ストレートへ整い、舵角も大きく減っています。そのため、CP以降はさらにアクセル開度を増やせます。

そのまま出口ストレートへ入り、4.90秒でGate Bへ到達します。

舵角を戻した分だけアクセル開度を増やす関係は、別記事「GRヤリスのコーナー脱出でアンダーステアを出さない|舵角とアクセル開度の関係」で詳しく説明しています。

同じ速度帯面積を短い時間で作っている

通常クリップとレイトクリップの比較条件を整理します。

両図の速度帯面積は、どちらも79,502px²です。

したがって、Gate AからGate Bまでの移動距離は同じです。

違うのは、時間軸方向の長さです。

図の設計値では、通常クリップの横幅は次のようになります。

5.30秒×240px/秒=1,272px

レイトクリップの横幅は次のようになります。

4.90秒×240px/秒=1,176px

差は96pxです。

96px÷240px/秒=0.40秒

通常クリップは、79,502px²の速度帯面積を5.30秒で作っています。

レイトクリップは、同じ79,502px²の速度帯面積を4.90秒で作っています。

つまり、レイトクリップは同じ距離を0.40秒短い時間で走っています。

所要時間は、通常クリップより約7.5%短くなります。

同じ距離を走っているため、区間平均速度はレイトクリップの方が約8.2%高くなります。

5.30秒÷4.90秒≒1.082

緑色の帯を図形として見れば、レイトクリップは同じ面積を短い横幅に収めています。

これが、同じ移動距離を短い時間で通過したことを表しています。

進入側の損失を出口側で回収する

図3と図4のコーナー前半を見ると、レイトクリップの緑色の速度帯は通常クリップより細くなっています。

レイトクリップでは、出口側へ向けた姿勢を早く作るため、コーナー前半の旋回半径が小さくなります。その分、最低速度も下がります。

ここでは通常クリップの方が有利です。

レイトクリップは、2.05秒で最大舵角へ達し、その直後から舵角を戻してアクセルを開けます。2.15秒には速度が上昇し始めます。

通常クリップの速度上昇開始は3.05秒です。

レイトクリップの方が、速度上昇を0.90秒早く始めています。

この早い加速によって、緑色の速度帯はコーナー後半から太くなります。出口ストレートではフルアクセルへ早く移り、高い速度を長く保ちます。

時間差が生まれる流れは、次のようになります。

CPを出口側へ移す
→CPより前にクルマの向きを出口へ整える
→最大舵角から早く舵角戻しへ移る
→アクセル開度を早く増やす
→速度上昇を早く始める
→出口後ストレートまで速度差を持ち越す

レイトクリップでは、進入側で速度を下げた分だけ時間を失います。

コーナー後半と出口ストレートでは、その損失を早い加速によって回収します。

今回の図では、出口側で得た時間が進入側の損失を上回り、Gate Bへの到達が0.40秒早くなっています。

スローインから加速アウトまでの速度変化は、別記事「スローイン・ファストアウトとは何か|有名な格言に欠けているピースを探る」で詳しく整理しています。

レイトクリップの効果が大きくなる条件

レイトクリップの効果は、出口側の加速を長く使えるコーナーで大きくなります。

出口ストレートが長ければ、早く加速して得た速度差が長く続きます。加速性能の高い車両でも、出口側へ速さを配分する利益が大きくなります。

CPの位置は、進入側で失う時間と、出口側で得る時間の釣り合いによって決まります。

CPを出口側へ移すほど、コーナー前半で必要な方向転換は大きくなります。最低速度も下がりやすくなります。出口側の利益が進入側の損失を最も大きく上回る位置が、そのコーナーに適したCPです。

出口直後に次のコーナーがある場合は、次のコーナーへ向けた位置と姿勢も区間タイムへ影響します。

最適な走行ラインは、コーナー半径、進入速度、出口ストレートの長さ、次のコーナー、車両特性、タイヤ、路面状態によって変わります。

図3と図4の0.40秒差は、今回設定した180度コーナーと操作、速度変化による図上の結果です。実走時の時間差は、それぞれの条件に応じて変化します。

まとめ

通常クリップでは、コーナー中央付近にCPを置きます。

進入側の旋回半径を大きく取りやすく、CP付近まで速度を保ちやすい走行ラインです。CP通過後にも旋回が残るため、舵角を戻し、大きなアクセル開度へ移るまでに時間がかかります。

レイトクリップでは、CPを出口側へ移します。

コーナー前半で速度を下げ、CPより前にクルマの向きを出口へ整えます。最大舵角から早く舵角戻しへ移り、アクセル開度と速度を早く増やします。

図3と図4では、進入前ストレート上のGate Aから、出口後ストレート上のGate Bまでを比較しています。

横軸は1秒=240pxです。

緑色の速度帯は、縦方向の太さが速度、横方向の長さが時間を表しています。

その面積は、

速度×時間の積み重ね=移動距離

に対応します。

通常クリップとレイトクリップの速度帯面積は、どちらも79,502px²です。

同じ移動距離に対する通過時間は、次のようになりました。

通常クリップ:5.30秒
レイトクリップ:4.90秒

レイトクリップは、同じ距離を0.40秒短い時間で通過しています。

コーナーの速さは、CP付近の速度だけで決まりません。

進入前ストレートでの速度、急減速、旋回中の最低速度、舵角を戻す時期、アクセルを増やす時期、出口後ストレートでの加速をすべて積み重ねた結果として決まります。

レイトクリップは、速さの配分を出口側へ移し、出口後ストレートまで含む区間全体の通過時間を短くする走行ラインです。

 

作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

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