プリロードと車高の関係とは?☆ 車高調の全長調整式とネジ式で意味が変わる理由

プリロードとは、スプリングにあらかじめ与える圧縮量です。

その物理的な意味は、全長調整式でもネジ式でも共通しています。

一方、車高との関係は車高調の構造によって変わります。

本記事では、プリロードの基本から始めて、全長調整式とネジ式で調整の意味がどう変わるのかを整理します。

以下では、線形バネを使用し、バンプラバーなどが介入しない通常の作動範囲を前提とします。

また、車両が静止し、自重をサスペンションが支えている状態を「1G」とします。


プリロードとは何か

プリロードとは、

ダンパー全伸長時にスプリングへ与えられている圧縮量

です。

つまり、

スプリングの自由長と、全伸長時の取り付け長との差

です。

ここでは、この圧縮量を「プリロード」、スプリングシートを動かす行為を「調整操作」として分けて扱います。

線形バネの基本関係は、

F=kxF = kx

です。

  • FF:バネにかかる力
  • kk:バネ係数
  • xx:自由長からの圧縮量

線形バネでは、通常の作動範囲においてバネ係数 kk は一定です。


線形バネのバネレートは一定

たとえば100 N/mmのバネなら、さらに1 mm縮めるために必要な追加荷重は100 Nです。

10 mmのプリロードが与えられている場合でも、

100 N/mm100\ {\rm N/mm}

というバネレートは同じです。

プリロードを変更すると、sagや1G時のサスペンション位置、使用するストローク領域が変わります。

その変化が乗り味にも影響します。


同じ荷重なら、自由長からの総圧縮量は同じ

たとえば、

  • バネレート:100 N/mm
  • 1G時にバネへかかる荷重:3000 N

とします。

自由長から見た1G時のバネ圧縮量は、

3000÷100=30 mm3000 ÷ 100 = 30\ {\rm mm}

です。

プリロードが0 mmなら、全伸長状態から1Gまでに必要となる追加のバネ圧縮量は30 mmです。

プリロードが10 mmなら、全伸長状態ですでに10 mm圧縮されているため、1Gまでに必要となる追加のバネ圧縮量は20 mmになります。

どちらの場合も、1G時に自由長から30 mm圧縮されている点は共通しています。

変わるのは、そこへ到達するまでに必要な追加変位です。


プリロードを増やすとsagが減る

sagとは、全伸長状態から1G位置までサスペンションが沈む量です。

プリロードを増やすと、全伸長状態ですでにバネに荷重が生じています。

そのため、1G荷重に達するまでに必要となる追加変位が小さくなり、sagも減ります。

1G時のサスペンション位置は伸び側へ移り、

  • リバウンド側の残りストロークが減る
  • バンプ側の残りストロークが増える

という変化が生じます。

プリロードは、

同じ荷重に対する1G時のサスペンション位置に関係する量

と考えると分かりやすくなります。


プリロードと車高の関係

プリロードを増やしてsagが減ると、1G時のサスペンション位置は伸び側へ移ります。

その結果、他の調整を加えなければ車高も上がります。

ここから先で、全長調整式とネジ式の構造差が効いてきます。


全長調整式|車高を別の機構で調整できる

全長調整式では、一般にロアブラケットなどを動かすことで、ショックアブソーバー全体の取り付け長を変更できます。

そのため、

  • スプリングシートでプリロードを調整する
  • ロアブラケット側で車高を調整する

という二つの調整自由度があります。

たとえば、スプリングシートを動かしてプリロードを増やすと、

  • sagが減る
  • 1G時のダンパー位置が伸び側へ移る
  • 車高が上がる

という変化が生じます。

その後、ロアブラケット側を調整すれば、プリロードと1G時のダンパー位置を維持したまま車高を戻せます。

この仕組みによって、

車高とプリロードを別々のセッティング項目として扱えます。

また、ロアブラケット側だけを動かせば、プリロードを維持したまま車高を変更できます。


全長調整式ではストローク配分も調整できる

プリロードを変更すると、1G時のダンパー位置が変わります。

車高をロアブラケット側で整えれば、外から見た車高を保ちながら、

  • バンプ側ストローク
  • リバウンド側ストローク

の配分を変えられます。

全長調整式では、

車高と、1G時にダンパーをストロークのどこへ置くかを分けて考えられる

ことになります。


ネジ式|車高とプリロードが連動する

ここでいうネジ式とは、スプリングシートを上下させることで車高を調整する構造です。

スプリングシートを動かすと、

  • プリロード
  • sag
  • 1G時のサスペンション位置
  • 車高

が連動して変化します。

つまり、一つのスプリングシート位置によって、プリロードと車高の両方が決まります。

そのためネジ式では、

車高とプリロードを一組の連動したセッティングとして扱う

ことになります。


全長調整式とネジ式の違い

両者の違いは、調整自由度にあります。

全長調整式

スプリングシートとロアブラケットという二つの調整機構があります。

そのため、

  • プリロードを変更したあとに車高を整える
  • プリロードを維持したまま車高を変更する
  • 車高を保ちながら1G時のダンパー位置を変える

といった調整が可能です。

ネジ式

スプリングシートの位置によってプリロードと車高が一緒に変わります。

車高、sag、1G時のサスペンション位置が、一つの調整操作に連動します。


結論

プリロードとは、

ダンパー全伸長時にスプリングへ与えられている圧縮量

です。

線形バネではバネレートは一定であり、プリロードを変えると、sagや1G時のサスペンション位置、ストローク配分、車高が変化します。

全長調整式では、ロアブラケットなど別の調整機構によって車高を設定できるため、

プリロードと車高を別々のセッティング項目として扱えます。

ネジ式では、

スプリングシートの位置によってプリロードと車高が連動します。

つまり、両者を分ける本質はプリロードそのものの物理ではなく、

プリロードと車高に、それぞれ独立した調整自由度があるかどうか

にあります。


他の記事への移動は下記をクリック

作成者: 理屈コネ太郎

元消化器内視鏡医・産業医。現在は社会・人間行動・構造分析をテーマに執筆活動を行う。定年退職後はヨット・ボート・クルマなど趣味と構造研究の日々を過ごす。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です