プリロードとは、スプリングにあらかじめ与える圧縮量です。
その物理的な意味は、全長調整式でもネジ式でも共通しています。
一方、車高との関係は車高調の構造によって変わります。
本記事では、プリロードの基本から始めて、全長調整式とネジ式で調整の意味がどう変わるのかを整理します。
以下では、線形バネを使用し、バンプラバーなどが介入しない通常の作動範囲を前提とします。
また、車両が静止し、自重をサスペンションが支えている状態を「1G」とします。
プリロードとは何か
プリロードとは、
ダンパー全伸長時にスプリングへ与えられている圧縮量
です。
つまり、
スプリングの自由長と、全伸長時の取り付け長との差
です。
ここでは、この圧縮量を「プリロード」、スプリングシートを動かす行為を「調整操作」として分けて扱います。
線形バネの基本関係は、
F=kxF = kx
です。
- FF:バネにかかる力
- kk:バネ係数
- xx:自由長からの圧縮量
線形バネでは、通常の作動範囲においてバネ係数 kk は一定です。
線形バネのバネレートは一定
たとえば100 N/mmのバネなら、さらに1 mm縮めるために必要な追加荷重は100 Nです。
10 mmのプリロードが与えられている場合でも、
100 N/mm100\ {\rm N/mm}
というバネレートは同じです。
プリロードを変更すると、sagや1G時のサスペンション位置、使用するストローク領域が変わります。
その変化が乗り味にも影響します。
同じ荷重なら、自由長からの総圧縮量は同じ
たとえば、
- バネレート:100 N/mm
- 1G時にバネへかかる荷重:3000 N
とします。
自由長から見た1G時のバネ圧縮量は、
3000÷100=30 mm3000 ÷ 100 = 30\ {\rm mm}
です。
プリロードが0 mmなら、全伸長状態から1Gまでに必要となる追加のバネ圧縮量は30 mmです。
プリロードが10 mmなら、全伸長状態ですでに10 mm圧縮されているため、1Gまでに必要となる追加のバネ圧縮量は20 mmになります。
どちらの場合も、1G時に自由長から30 mm圧縮されている点は共通しています。
変わるのは、そこへ到達するまでに必要な追加変位です。
プリロードを増やすとsagが減る
sagとは、全伸長状態から1G位置までサスペンションが沈む量です。
プリロードを増やすと、全伸長状態ですでにバネに荷重が生じています。
そのため、1G荷重に達するまでに必要となる追加変位が小さくなり、sagも減ります。
1G時のサスペンション位置は伸び側へ移り、
- リバウンド側の残りストロークが減る
- バンプ側の残りストロークが増える
という変化が生じます。
プリロードは、
同じ荷重に対する1G時のサスペンション位置に関係する量
と考えると分かりやすくなります。
プリロードと車高の関係
プリロードを増やしてsagが減ると、1G時のサスペンション位置は伸び側へ移ります。
その結果、他の調整を加えなければ車高も上がります。
ここから先で、全長調整式とネジ式の構造差が効いてきます。
全長調整式|車高を別の機構で調整できる
全長調整式では、一般にロアブラケットなどを動かすことで、ショックアブソーバー全体の取り付け長を変更できます。
そのため、
- スプリングシートでプリロードを調整する
- ロアブラケット側で車高を調整する
という二つの調整自由度があります。
たとえば、スプリングシートを動かしてプリロードを増やすと、
- sagが減る
- 1G時のダンパー位置が伸び側へ移る
- 車高が上がる
という変化が生じます。
その後、ロアブラケット側を調整すれば、プリロードと1G時のダンパー位置を維持したまま車高を戻せます。
この仕組みによって、
車高とプリロードを別々のセッティング項目として扱えます。
また、ロアブラケット側だけを動かせば、プリロードを維持したまま車高を変更できます。
全長調整式ではストローク配分も調整できる
プリロードを変更すると、1G時のダンパー位置が変わります。
車高をロアブラケット側で整えれば、外から見た車高を保ちながら、
- バンプ側ストローク
- リバウンド側ストローク
の配分を変えられます。
全長調整式では、
車高と、1G時にダンパーをストロークのどこへ置くかを分けて考えられる
ことになります。
ネジ式|車高とプリロードが連動する
ここでいうネジ式とは、スプリングシートを上下させることで車高を調整する構造です。
スプリングシートを動かすと、
- プリロード
- sag
- 1G時のサスペンション位置
- 車高
が連動して変化します。
つまり、一つのスプリングシート位置によって、プリロードと車高の両方が決まります。
そのためネジ式では、
車高とプリロードを一組の連動したセッティングとして扱う
ことになります。
全長調整式とネジ式の違い
両者の違いは、調整自由度にあります。
全長調整式
スプリングシートとロアブラケットという二つの調整機構があります。
そのため、
- プリロードを変更したあとに車高を整える
- プリロードを維持したまま車高を変更する
- 車高を保ちながら1G時のダンパー位置を変える
といった調整が可能です。
ネジ式
スプリングシートの位置によってプリロードと車高が一緒に変わります。
車高、sag、1G時のサスペンション位置が、一つの調整操作に連動します。
結論
プリロードとは、
ダンパー全伸長時にスプリングへ与えられている圧縮量
です。
線形バネではバネレートは一定であり、プリロードを変えると、sagや1G時のサスペンション位置、ストローク配分、車高が変化します。
全長調整式では、ロアブラケットなど別の調整機構によって車高を設定できるため、
プリロードと車高を別々のセッティング項目として扱えます。
ネジ式では、
スプリングシートの位置によってプリロードと車高が連動します。
つまり、両者を分ける本質はプリロードそのものの物理ではなく、
プリロードと車高に、それぞれ独立した調整自由度があるかどうか
にあります。